第102回全国高校サッカー選手権大会 広島国際学院 - 静岡学園

2023年12月31日(日)@浦和駒場スタジアム

静岡学園が大会の2回戦で敗退した。
スコアは1対1の同点だったが、PK戦での敗退になった。

攻勢だったのは静岡学園だったが、カウンター気味の攻撃で先に失点した。
その後すぐに同点に追いついたが、ついに勝ち越し点を奪えなかった。

静岡学園は1回戦を6-0で快勝している。エースFWの神田選手が、クロスからのヘディングシュートで2得点した。
両サイドをパスやドリブルで崩してからのクロスを神田選手が中央で決める、というのが静岡学園の主要な得点パターンの一つだろう。
しかし、当然ながらそのパターンは相手も最大警戒する。広島国際学院の2人のCBは、常に神田選手を挟み込むように徹底マークしていた。
神田選手から見ると、2人をかわさないと得点できない状況だったので相当きつかったと思う。
実際、1回戦のような得点は決められなかった。


 

神田選手への厳しいマークだけではなく、広島国際学院の守備は固かった。
守備陣形は4-4-2。静岡学園がボールを保持すると素早く守備ブロックを形成する。

ここで、広島国際学院のこの試合における守備陣形の意図するところを以下のように推察してみた。

□中盤の4人(場合によってはFWの2人も)は、相手のボール保持者に積極的にチャレンジしつつも、カバーリングを徹底する。相手に抜かれて、4人が置き去りになってしまうことが無いようにする。
□DF4人の横の距離を空け過ぎない。DFとDFの間のスペースに侵入されにくい距離を保つ。
サイド攻撃の守備では4人がその距離をキープして横スライドする。
□DF4人のラインと中盤4人のラインを密接にする。中盤ラインとDFラインの間のスペースに侵入されにくい距離を保つ。

広島国際学院の守備陣形の動きから以上のように推察した。
もし、このような意図だったとすると、結果的に広島国際学院の守備は成功だったと思う。
4人のDFラインは概ね、混乱させられること無く守備のタスクを実行することができたのではないだろうか。
4バックの横の距離をタイトにしてゴール前の守備を重要視しているためか、サイドチェンジされたりするとマンマークのスライドに遅れが出る場面もあった。
そのため、サイドを突破されて良質のクロスを浴びることもあったが、そこは予想の範囲内である。
味方との距離を空けず、良く連携されたDFが得点を許さなかった。
また、粘り強い中盤の守備にも助けられて、最終ラインのDFが「ここを抜かれたら絶体絶命」という局面を迎えることが少なかった。
それは、中盤の4人との距離をタイトにすることで、最終ラインが孤立してしまうことが少なかったからでもある。

広島国際学院の4人のDF、特に中央の2人のCBが、静岡学園の攻撃によって「王手」をかけられてしまう。そんな局面を最小限に抑えた試合だったと思う。
チーム全体の守備戦術によって、最終ラインに掛かる負荷を最小限に食い止めている。
結果的に相手の攻撃を最少失点で抑え込むことに成功した。


 

反対に静岡学園としては、この試合における攻撃はどうだったのだろうか。
静岡学園側の目線で考えてみたい。

やはり、基本的にはサイド攻撃。これが頭にあったと思われる。
サイドを攻略して、クロスを神田選手に決めてもらう、という攻撃方法である。
試合を振り返ってみても右と左の両サイドからの攻撃は数多く繰り出されており、実際に惜しいチャンスも何回かあった。
しかし、相手のゴール前の守備は固く、サイド攻撃からは得点できなかった。

広島国際学院からすると、ある程度サイドを崩されてしまうのは許容範囲内だったように思う。
サイドを崩されてもゴール前の中央だけは絶対に固く閉じる。
この共通認識があったから静岡学園のサイド攻撃に耐えられた。

そうすると静岡学園は、結果的に相手の土俵で戦ってしまった部分が多かったことになる。
相手が許容している戦法で、真っ向から勝負を挑んでしまったということだ。

相手が許容していない攻撃、すなわち、相手の嫌がる攻撃が少なかったように思う。

じゃあ、この試合で相手が嫌がる攻撃とは、一体何だったんだろう?
と、考えた時に、前述した広島国際学院の守備陣形の特徴、そこから見える守備方針が答えになってくる。
①中盤の守備で簡単に抜かれずに、できるだけ静岡学園の攻撃パワーを吸収する。
②4人のDFラインの横幅をタイトにしてゴール前を固める。
③中盤の守備ラインと最終ラインの距離を詰めてスペースを作らない。
要約すると、このような守備方針だった。(あくまでも推察だが・・)

そうすると、相手の嫌がる攻撃というのは当然、
■相手中盤の守備を空転させるような攻撃
■4人のDFをピッチの横幅に分散させるようにして、できたスペースを使う攻撃
■中盤ラインと最終ラインの間のスペースを使う攻撃

と、いうことになる。

前半、このような攻撃で静岡学園がチャンスを迎えたのは、31分だった。
DFの大村選手が中盤を飛び越して、神田選手にグラウンダーのフィードを送る。そのボールを神田選手がフリック(スルー?)すると、最終ラインの裏に抜け出した庄選手に繋がった。
庄選手は飛び出してきたGKをかわす際にバランスを崩したためシュートが乱れてしまったが、大きな得点チャンスであった。
・中盤を省略した形のフィードによって、相手の中盤守備を空転させている。
・広島国際学院の中盤ラインと最終ラインの間にいた神田選手へボールが入っている。
これらの点で、相手の嫌がる攻撃ができていた。

続いて後半の8分
左SBの吉村選手から、相手の最終ラインと中盤ラインの間のスペースに走り込んだ宮嵜選手にパスが出る。
宮嵜選手はターンして前を向きCBと対峙する。抜かれるリスクがあるのでCBは飛び込めない。
そのCBの裏のスペースへさらに吉村選手が走り込み、宮嵜選手からスペースへのパスが通る。
左サイド寄りでの崩しだったのでシュートには直結しなかったが、もう少し中央寄りでのプレーだったら大きなチャンスになっていたと思う。

後半15分
森﨑選手が最終ラインの裏スペースへ送ったパスに、庄選手がフリーで抜け出す。
(庄選手は、一旦下がって受けようとする動きでCBを釣り出してからその裏へ走った!)
追いすがるDFをかわして、飛び出してきたGKの頭上を越すループシュートを決めた。
森﨑選手の1本のパスは中盤の底から出されているが、見事に広島国際学院の中盤の4人を空転させている。

後半24分
中盤の右サイド寄りで高田選手がボールキープすると、相手の左SBとCBの間のスペースにポジショニングしていた野田選手へ縦パスが入る。
近くにDFがいないため、野田選手はペナルティーエリア内から余裕を持って中央へクロスを送るもGKにクリアされてしまった。
この場面では静岡学園が最前線に5人の選手を並べている。その5人の相手に対応するために広島国際学院の4バックの横の距離が通常よりも広がっていた。
それぞれが孤立しているような状況であり、静岡学園の選手が決定的な仕事をするチャンスだった。

後半27分
野田選手から相手CBのマークを受けた神田選手へくさびのパスが入る。
神田選手は相手を背負いながらキープして、そのまま走り込んで来た野田選手へ倒されながらもボールを落とす。
野田選手が抜け出してGKと1対1になるかと思われたが、CBに体を当てられてシュートならず。
これも大きなチャンスだった。

 

後半になってから、静岡学園の攻撃に変化があったように感じられる。前半に比べて攻撃が多彩になっている。
川口監督の指示があったのかどうかは不明だが、静岡学園としてできることはやったのだと思う。
ただ、広島国際学院が先制点を奪ったことで、難しい試合になってしまった。
試合が進むにつれて広島国際学院の守備ブロックがより強固になるのだ。
4-4-2の守備ブロックというより、9人ぐらいの守備者のひと固まりがゴール前に構築されているような状況。静岡学園がどのように攻撃してもDFの誰かしらに対応されるような状態になっていった。

前述したような静岡学園の攻撃は、そのどれもが相手のCBにプレッシャーをかけることができている攻撃だと思う。CBに脅威を与える攻撃、「王手」をかける攻撃である。
前半からそのような攻撃が頻出していれば、あるいは広島国際学院の守備ブロックが決壊していたかもしれない。
そして後半8分のプレーのように、神田選手だけではなく、いろいろな選手がCBにプレッシャーを掛けることができていれば、フィニッシャーの神田選手がその本領をより発揮したように思えて仕方がない。


 

やはり、CBは守備の要である。
相手に攻撃されてもCBが力を温存できていると、危ない場面で得点を防ぐプレーが生まれやすい。
逆に、相手の攻撃によってCBが仕事をさせられてしまった後では、危ない場面で得点を防ぐプレーが生まれにくい。

チームの絶体絶命の場面で、CBがヒーローのように颯爽と現れてピンチを摘み取ることができるか、それとも、CBの出番は既に終わってしまっていて、その後のヒーローが現れないままに得点されてしまうのか。

ここがサッカーの守備において大事なところだと思う。

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