9月の親善試合でドイツ代表、トルコ代表に連勝してから1ヵ月後、10月にも日本代表の親善試合が2試合組まれた。
その1試合目は10月13日にカナダ代表と対戦して、4対1で勝利している。
2試合目が、このチュニジア代表との対戦だ。
9月のドイツ代表戦で「日本代表が上のレベルに到達した」と備忘メモに記した。
その試合から勝ち続けて迎えたこの試合で、注目したポイントはこれだ。
「上田選手が代表のFWとして定着するようなインパクトを残せるか?」
個人的に、上田選手が日本代表の不動のFWになれば、代表チームはより強いチームになる、3年後のワールドカップでは上田選手の爆発が必要である、と考えている。
なので、どうかいいプレーをしてくれ、と念じながら見ていた。
しかし、かなり気持ちを入れて観戦したつもりでも、観戦後にはプレーの印象が時間と共にぼやけていってしまう。
いいプレーもあったとは思うが、得点もなかったし・・・どうだったんだろう?・・・というモヤモヤした思いに頭の中が支配されていく。
せっかくの観戦が無駄になってしまうような感覚だ。
そこで、上田選手のプレーを今一度はっきりと確認してみようと思った。
約45分間の彼のプレーを文字にして検証してみると共に、そのプレーについて自分なりの雑感を記してみたい。
以下、上田選手のプレー機会を試合の中から抽出して書き出していく。
■プレー機会その①
50分、GK鈴木選手からのロングボールをヘディング。しかし味方には繋がらなかった。
しかしボールを捉えた高さや空中での安定感は感じられた。
ロングボールの第一目標となる存在なので、空中戦で優位になれるかどうかは重要な点である。
■プレー機会その②
51分、相手の最終ラインから鋭く抜け出し、久保選手のスルーパスを受ける。
DFのチェックを受けたため、左45度からのシュートはうてなかった。しかし、巧みにボールキープする。
一旦後方にパスする素振りを見せた瞬間、急激にゴールライン方向にターンしてクロスを送るも、ボールは相手に当たってゴールラインを割った。
このようなボールの受け方になると、自分の走る方向と背後からの圧力の方向が同じになる。
そうなるとトラップした瞬間に受ける圧力のベクトルが大きくなって、体勢が崩れてしまいやすい。ボールキープが乱れてしまう場面が多い。
しかし、上田選手はトラップの瞬間にキュッと体をねじり相手との接点をずらして、圧力をまともに受けないようにした。ボールキープが乱れなかった。
また、その直後、急激に180度ターンしてゴール方向に抜け出した。ボディターンを連続させる動きに相手はついてこれなかった。
■プレー機会その③
56分、鈴木選手のゴールキックをDFと競り合う。映像では不明瞭だが、ボールには触れなかったように見えた。
競り合いで体勢を乱されて、横方向へのヘディングになってしまった。その後に日本がそのボールを奪っている。
上田選手の場合、万全の態勢でなくても十分な高さがあるジャンプができる。
この場面のように、少し遅れて競り合いに参加しても五分五分に持ち込める能力がある。
■プレー機会その④
57分、DFにマークされながら旗手選手からのパスを受けた瞬間、右足インサイドの巧みな角度調整によって、自分の背中方向にいた久保選手にダイレクトで繋ぐ。久保選手からのリターンパスを受けるとドリブルしながら右サイドの伊東選手へパスを送る。そのパスは惜しくもカットされた。
相手のマークを受け止めてボールキープするプレーと、このようなワンタッチプレーを混在させると相手は対応に苦慮すると思う。
■プレー機会その⑤
59分、鈴木選手のゴールキックを久保選手→伊東選手→上田選手とボールをバウンドさせずにボレーで繋ぐ。伊東選手からの浮き球をセンターライン付近で上田選手が胸トラップしようとする。
しかし、DFに手で抑え込まれてボールに触れずバウンドしてしまう。そのボールに向かってなおも前進するが、首のあたりを掴まれてマイボールにできなかった。
この一連のプレーでファウルを獲得した。
その動きが力強いため、相手DFが手で掴んで止めてしまいファウルが獲得できた。
相手を引きずりながらでも前進しようとするプレーが、非常に頼もしかった。
■プレー機会その⑥
62分、「プレー機会その②」と類似した状況。斜めに走りながら久保選手のスルーパスをエリア内で受ける。GKが飛び出すが先にボールに触ってゴールライン際でキープする。DFが寄せてくる前にマイナスのクロスを菅原選手に届ける。菅原選手のシュートは枠を外れた。
この時に、
①右サイドに伊東選手がいる
②自分の背後にDF(ハダディ選手)がいる
という2点の情報を得ていると思う。
その情報を得て、自分は左サイド方向に走ろうと判断する。
次に、一旦自分の行きたい方向と逆方向に動いて目指すスペースを温存する。そして一気にダッシュをかまして久保選手のパスを呼び込んだ。
久保選手としては上田選手と伊東選手のどちらにもパスを出せる状況だった。
しかし、上田選手の予備動作を含めた動き出しを見て、パスが成功するイメージをより強く感じたのではないだろうか。
■プレー機会その⑦
67分、チュニジア代表のビルドアップのパスミスによってボールを保持する。目の前のメリアー選手を抜けばGKと1対1になる状況になった。
ここで上田選手は、相手の左側を抜こうとして右足で右斜め前にボールを持ち出そうとする。
しかし、何故かボールに伝わる力が弱く、大きくボールを持ち出せない。
メリアー選手にカットされてしまいチャンスにはならなかった。
これはミスプレーだったと思う。
予期しない形でボールを受けたせいだろうか?動きに思い切りが感じられなかった。
残念なプレーだった。
■プレー機会その⑧
68分、チュニジア代表のビルドアップに守田選手が絡み、ヴァレリー選手のマークを受けていた上田選手のところにボールがこぼれる。トラップが大きくなったため、近くにいたスキリ選手に奪われかけるが、上手く体をねじ込んでボールキープする。その後、味方にパスを送った。
ただ、最初のトラップが不用意に大きくなっていなければ、背後にいたヴァレリー選手のマークが上田選手に集中していたはずだ。そうすればフリーの浅野選手と2対1の状況ができて、チャンスに発展していた可能性がある。
良いプレーと悪いプレーが混在していた場面だった。
■プレー機会その⑨
さらに68分、冨安選手からのグラウンダーの縦パスをDFを背にしながら受けるが、トラップが大きくなってしまう。簡単にボールを奪われてしまった。
直前のプレーに続いて、ポストプレーに入る時のトラップにミスが連続した。
■プレー機会その⑩
68分、チュニジアの右サイドでヴァレリー選手がビルドアップのパスを受ける。そこに上田選手と浅野選手がプレスに行く。浅野選手に当たったボールがサイドラインを割りそうになるが、上田選手がボールを引き戻すようなヒールキックで浅野選手へパスを送る。そこから浅野選手が久保選手へパス。久保選手はドリブルからマーカーの股下を抜くシュートを放つが、ゴール枠をわずかに外してしまった。
■プレー機会その⑪
73分、チュニジア陣内でのロビングボールを上田選手とメリアー選手が競り合う。そのボールを胸で丁寧に落として南野選手へ繋いだ。
普通はヘディングでの競り合いになる場面だと思う。しかしジャンプしながら体をひねって落下するボールを上手く胸で捕らえている。
上田選手の真横に南野選手がいるので、空中で体をひねり胸の面を南野選手へ向けているのだ。
ジャンプした時の空中姿勢の安定度、滞空時間が優れているから可能なプレーだと思う。
■プレー機会その⑫
同じく73分、南野選手がチュニジアの右サイドの深いスペースに走り込み、浅野選手からパスを引き出す。腰を回しながらグラウンダーのクロスを送ると、そこにいたのが上田選手。
チュニジアの2人のDFにマークされながら一旦左足でトラップする。しかしトラップが少し大きくなってしまいシュート角度が厳しくなった。ボールに追いつくと腰を鋭く回しながら左足で強いシュートを放つ。ボールは惜しくもポストを叩いてゴールラインを割った。
トラップが大きかったせいで、2人のDFを振り切れている。
もし、意図したプレーだとすると、かなりスケールの大きなプレーだ。
トラップした瞬間にボールの到達点を予測しているような動きをしている・・・ようにも見えるので、意図したトラップだったのかもしれない。
よく、シュートの強度を表す時に「パンチ力がある」という表現を使う。
キックしているのに「パンチ力」という表現はどうもしっくりこないな・・・と思っていたが、この上田選手のシュートはまさに「パンチ力がある」シュートだった。
足を踏ん張り力を溜め、腰の回転を利用して溜めた力を一気に一点に集中させている。
映像を見ると「脚でボールを目一杯殴りつけている」ようなシュートなのである。
やはり「パンチ力がある」という表現で正しいのだと思い直した一撃だった。
シュートコースが厳しくなって、難しいシュートになったが、それでもポストには当てている。
本人はニア上のコースを狙ったと思うが、そこへ正確に飛んでいたらGKはセーブできなかっただろう。
■プレー機会その⑬
83分、チュニジア陣内でこぼれ球を拾った遠藤選手が、ペナルティエリア右角付近でエリア内にいた上田選手にパス。しかしトラップが浮いてしまうコントロールミス。シュートに持ち込めなかった。
しかしトラップが浮いてしまった。単純なトラップミスとしか思えない。
シュートで終わらなければいけない場面だったと思う。
■プレー機会その⑭
87分、チュニジアが左サイドからクロスを入れるが、ヘディングで谷口選手がクリア。そのボールを守田選手→遠藤選手と繋いで上田選手に縦パスが入る。トラップして前方へドリブルを開始しようとした矢先にヴァレリー選手に足を伸ばされてカットされてしまった。
あっけなくボールをカットされてしまった。これは上田選手の技術的なミスというよりは状況判断のミスという場面だと思う。
映像を見返すと、谷口選手がクリアして守田選手→遠藤選手へとボールが渡る間に、上田選手はその味方の選手しか見ていない。
ボールが来る前に周囲を確認できていれば、こんなに無防備なボールの持ち方はしなかっただろう。
と同時に、上田選手が周囲を確認するアクションをしていなかったので、ヴァレリー選手は自信を持って間合いを詰めながら思い切りよく足を伸ばしているのだと思う。
■プレー機会その⑮
90分、ハーフライン付近から守田選手→遠藤選手→浅野選手とトライアングルのパスが繋がり、チュニジアの右サイドを攻略する。浅野選手からゴール前の上田選手にラストパスが通るが、シュートはDFにブロックされてしまった。その流れで町田選手から再びクロスが供給されるが、ボールは上田選手の頭上を通過した。
以上、上田選手のプレー機会を書き出してみた。
改めて書いてみると、良いプレーもあるし悪いプレーもある。
良い点は、接触プレーでも相手に劣らないという点だろう。マイボールは安定してマイボールにできるし、五分五分のボールでもかなりマイボールにできる。分が悪いボールでもマイボールにできる可能性がある。
上田選手にとって小さなチャンスでも、それを物にされてしまう怖さを相手DFは感じるのではないだろうか。
相手の最終ラインに脅威を与える力が、上田選手にはあると思う。相手DFは常に上田選手に注意を払う必要があるだろう。
その力が、日本の2列目以降の攻撃者にも良い影響を与えると思っている。
あとはこの試合を見て、体を急激にひねったりする回転系統の運動能力に卓越したものがあるように感じた。その運動能力で相手を翻弄するプレーを時折見せる。
また、繊細なタッチを必要とするプレーもできる。
剛と柔を兼ね備えている選手だと思う。
逆に悪い点もあった。
単純なトラップミスやタッチミス、状況判断のミスなどだ。
サッカーにミスはつきものだが、減らせるミスは極力減らして欲しい。
そうすれば上田選手は相手にとって、さらに厄介な存在になれるだろう。
11月からは次回のワールドカップの2次予選がいよいよ始まる。
予選を通じてチーム内での連携を深めていって欲しいし、コンスタントに得点も決めて欲しい。
個人的に推している上田選手のプレーに、これからも注目していきたい。
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