2023年10月7日 @トランスコスモススタジアム長崎
プレーオフ圏内が目前、7位の長崎と、12位まで順位を上げてきた藤枝との対戦。
第25節から第33節まで8試合(第32節が悪天候で延期)勝利がなかった藤枝だったが、第34節から第37節の4試合を2勝2分として調子を上げていた。
その4試合、藤枝はそれまでのサッカーに変化を加えた。
結果の出ないサッカーに対して、明らかに改善を施した。
以下のような改善をチームで共有したのではないだろうか?と、自分なりに想像してみた。
①ボール保持の時に右CBは高い位置を取らない。3人のCBは守備に専念して常にゴール前を警戒する。
②左右のWBのプレー位置を少し低くする。特に、相手がボール保持したらCBと共に4枚あるいは5枚の最終ラインを形成して攻撃を迎え撃つ。
③2人のボランチが攻撃に参加してバイタルエリアを空けないようにする。ボランチのうち、少なくとも1人は危険なエリアを常に監視する。
④2シャドーも守備ブロックを形成する。特に、相手の攻撃を遅らせた時にはボランチの横のスペースに戻り、守備ブロックを形成する。
⑤自陣からパスを繋ぎ、ボールを保持しながら攻撃することだけに拘らない。場合によってはロングボールを前線に送る攻撃を選択する。
⑥極端なハイプレスを仕掛けることにも拘らない。無理をしてプレスを掛けずに自陣に引いて守備ブロックを形成する。
「超攻撃的サッカー」を掲げる藤枝だが、調子の悪い時には現実的な改善を行わざるを得ない、ということだと思う。
それが上手くハマった。潔い変更が良い方向に働いた。
直近4試合のうち3試合が無失点試合になり、得点数は6点だった。
好調路線に入った藤枝が、上位の長崎相手にどう戦うか興味があった。
しかし結果は、1-5の完敗。
やはり長崎が強かったのだろうか。もちろんそれもあるだろう。
ただ、藤枝は好調だった直近4試合のサッカーを変えてきた。
まず、上記の①に変化があった。ポゼッション時に右CBがライン際に張り出して高い位置を取っている。
次に②も変わっている。両WBの平均的な位置が高くなっているように見える。
あとは⑤の変化。ボールキープしている各選手が周囲を良く見ながら、確実に味方に届くようなパスを出している。アバウトな長めのボールをあまり使わない。
ボールを大切に動かしながらなるべく多くの人数でゴールを目指す、という以前のサッカーを実行しているようだった。
1失点目は、相手のシュートが小笠原選手に当たりコースが変わったことでGKの北村選手が反応できなかった。
不運な失点と言えるが、①、②の変化が無かったらどうだっただろうか。
もしかすると、シュートした長崎の中村選手や中村選手へパスを出したマテウス選手への関与が、もっと違った形になっていたかもしれない。
2失点目は、ビルドアップで致命的なパスミスが起こり、そこにつけ込まれた。
しかし、もし②の変化が無ければ、マテウス選手(左サイドからアシストのセンタリング)のプレーを制限できていたかもしれない。
そもそも⑤の変化が無かったら、あの場面でのパスミス自体が起きていなかったかもしれない。
前半に2点を奪われてしまった藤枝は、点を取りに行くしかない。
ボール保持率をより高めて、ショートパスを主体にして相手を押し込む。守備では積極的なハイプレスを繰り出す。
しかし、人数をかけた攻撃をひっくり返されるような形で、後半に3点を奪われてしまった。
地元なので、藤枝MYFCの試合は何試合か観戦している。
頑張って欲しいと思いながら観戦する。
だが、この試合を観戦しての感想は「負けてしまって残念・・・」というより先に「戦い方の違いで、こんなにも結果に差が出てしまうんだ・・・」というものだった。
本来の藤枝のサッカーは、最終ラインからのショートパスやミドルパスあるいはドリブルで、相手の間隙を突きながらゴール前まで進んで行くサッカーだ。
ピッチの上を理路整然と人とボールが動く。まるで詰め将棋のような攻撃でゴールを奪うサッカーは見ていて楽しかった。
だが、8試合勝利がなかった時期は、そのサッカーで結果が出なくなってしまった。
なるべく多くの人数でゴールを目指すサッカーなので、そのサッカーが機能しない場合、守備面が手薄になってしまう傾向があった。そのもろさが露呈してしまった時期だったと思う。
1-5で完敗してしまったこの試合は、残念ながらその時期の状況に戻ったようだった。
前述したように、結果を見て「もし○○していたら」と考えてみても、あまり意味は無い。
しかし、藤枝本来のサッカーを変えたら好結果を得た。そして、また本来のサッカーに戻したら悪い結果になった、という事実を検証することに意味はもちろんあるだろう。
そうすることで、残り試合での進むべき道が見えてくるかもしれない。
地元に住んでいる者としては、是非藤枝MYFCに健闘して欲しいし、そのサッカーは非常に魅力的だと思っている。
なので、どうしても短絡的というか、結果を焦るような考え方に囚われてしまう。
「現在のチーム状況で『本来』のサッカーを志向したとして、果たして効果が見込めるのか?」
ということを考えてしまうのだ。
効果とは、失点を上回る得点を奪うことである。
藤枝の場合は攻撃に比重を置いたサッカーになるので、チームに一定の得点力が備わっていることが重要になる。
対長崎戦は、本来のサッカーに戻して臨んだ試合だった。しかし、失点を上回れるような得点力は感じられなかった。
この試合では、自陣からロングボールを使って速攻を仕掛ける攻撃を封印している。
かわりに、じっくりとパスを繋ぎながら相手の守備陣形を崩す攻撃を採用した。
だが「じっくりと」攻撃するということは、相手の守備陣形も「じっくりと」整えられている状況、ということだ。
藤枝はその守備陣形を崩して得点する必要があった。
相手のプレッシャーが強いアタッキングサードで、時間とスペースを生み出してシュートにまで持って行く必要があった。
しかし、そのようなチャンスの場面は少なかったと思う。
もし、今の藤枝に、整っている相手守備を崩し切るための戦術や組織力や個人能力が備わっていないとすると、危険な状態で試合に臨んでいることになってしまう。
多くの人数で攻撃に行く、しかし相手を崩せない。そしてボールを奪われて攻め返される。
すると、この試合のように失点数 > 得点数となる確率が高くなるからだ。
一方で、2勝2分の好成績だった前節までの4試合を思い出してみる。
この時は、守備ブロックを固めてロングボールも多用する、というサッカーだった。
当初は「藤枝もついに普通のチームになってしまったか・・・」と思い、少しだけ落胆した。
しかし結果は、自分の思いとは裏腹に好結果となる。
「このサッカーでいいじゃないか!」と無責任に思った。
3人のCBが両サイドにWBの助けを得て相手の攻撃をはね返す。ロングボール、クロス、セットプレーの空中戦も強くなったように感じた。
5人の最終ラインの前には、2人のボランチを中心にした4人のブロックを構築する。
5枚-4枚の守備ブロックを築けば、そんなに簡単には失点しなくなる。
ただ、その状態から、得意だった細かいパスワークでの攻撃に移ることは難しい。
必然的に前方向へのロングボールも使うようになる。
そこで欠かせない選手だと感じたのが、アンデルソン選手だ。
体の強いアンデルソン選手が、ややアバウトなロングボールに反応して、マイボールにしてくれる。
そして相手のDFがそのプレーに引き寄せられる。
ここがポイントだと思う。
相手のDFはどうしてもそちらに注意が行く。アクシデント的な対応を迫られるために、守備態勢が乱れやすい。
そこに得点のチャンスが生まれる。
整っていた相手の守備に乱れが生じた時、それに乗じる力が藤枝にはあると思う。
と言うか、元々「超攻撃的サッカー」で培ったメンバーの能力がその時に際立つ、ということだろう。
単発的で多少強引であっても相手の守備に小さな穴を開けられれば、そこを取っ掛かりにして相手に脅威を与えられる。
好調だった4試合は、別の戦い方を手に入れた4試合だった。
藤枝の次の試合に注目したい。どちらのサッカーを採用するのだろうか。
あくまでも理想のサッカーを追求するのか、それとも直近で結果を出したサッカーを再採用するのだろうか、非常に興味深い。
個人的には結果を出したサッカーで勝利を掴んで欲しいと思っている。・・・・・いや、しかし本来のサッカーを貫いて欲しいという気持ちもある。
複雑な心境だ。
いやいや、もしかすると、どちらでもないサッカーを準備している可能性もある。
もしも、その第三のサッカーが機能した場合には、藤枝というチームはさらに進化することになる。
サッカー選手の個性は、敵も味方も含めて千差万別である。
チームは、そのメンバーの個性に適合したサッカー、そして相手に対して効果が見込めるサッカーを練り上げて、浸透させ、実行することが大事になる。
リーグ戦を1シーズン戦う上で、おそらくどのチームもそのことに腐心しているのだと思う。
そういうチーム努力に思いをはせて観戦するのも、サッカー観戦の面白さなんだろう。
今更ながら、最近の藤枝MYFCの試合を通してそのようなことを考えた。
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