国際親善試合 ドイツ代表ー日本代表

2023年9月9日 @フォルクスワーゲン・アレーナ

カタールワールドカップで勝利したドイツ代表に、親善試合ではあるが連勝した。

観戦後、かなりの興奮を覚えた。
チームの調子が良かった、勝てて良かった、という種類の興奮ではないように感じる。

そうではなくて、
今日のこの日をもって、チームそのものが1つ上のレベルに昇格しました。
おめでとう。今までいろいろあったけれど、これからはこのレベルで世界の強豪と互角に戦っていくんだね・・・
という自分の中の高揚感から来る興奮、のような気がする。

ワールドカップでは2対1で勝ったが、終始、日本代表は守勢に立たされ続けていた。
後半、畳みかけるような攻撃で見事に逆転したが、10回戦って1回勝利する、その1回がワールドカップで起きたと思っていた。

しかしこの日の試合を見て、10回戦ったら7回ぐらい勝つんじゃないだろうか?と思ってしまった。
もし、ドイツ代表、日本代表に対する先入観が何も無い人がこの試合を見たら、「強い方の青いユニホームのチームが勝ったなぁ・・」と思ったのではないだろうか。

一体、代表のどこが変わったのだろう?
なぜ上のレベルに昇格したと感じてしまったのだろうか?
自分の中の高揚感が消えないうちに書き記してみたい。


 

【ポイント①】高いDFラインを敷いて、相手の攻撃を切れるようになった。
従来の日本代表は、強豪国と対戦する場合、相手の攻撃圧力に押されて守備の重心が下がり、ゴール前に多くの人数を配置するような守り方になることが多かった。
そのため反撃する時には、相手が待ち構えている前方向にボールを繋いでいくしかなかった。
すぐ後ろには自分たちのゴールがあるのだから仕方がない。
おまけに相手のゴールは遥か遠くにある、という困難な状況になってしまう場面がよく見られた。
そのような状況では攻撃権を奪い切ることができずに、守備の時間が長く続いてしまう。
当然失点のリスクが増えるし、試合の主導権が握れない。
相手の攻撃力に抗うことができないまま、敗戦してしまう悔しい思いを何度もしてきた。

この試合ではそのような状況が見られなかった。
「DFラインが下がり過ぎると攻められっぱなしになるから、できるだけ上げて守ろうね」という共通意識を持ちながらそれを淡々と実行していたように見えた。

「淡々と」と書いたがDFラインを高く保つのは簡単ではないと思う。
まずDFは極力、自分の背後のスペースは使われたくないはずである。
相手の攻撃を受ける時、なるべくなら背後を気にせずに、視界や意識を自分の前方のみに限定して守りたい、という気持ちがDFにはあるだろう。
だが、ラインを高くすればするほど背後のスペースは広がり相手に狙われやすい。そのようなリスクを大きくしてしまいながら守るのは、難しいことだと思うのだ。

しかし、背後のスペースを使われそうになっても個人の身体能力やカバーリング能力が高ければ問題は無いはずである。
日本のDF陣は、CBの富安選手と板倉選手を中心に問題が起きないレベルの能力が備わっていた。
だから、背後のスペースを使われるリスクよりDFラインが下がってしまうリスクの方を問題視できたのだと思う。
FW、MF、そしてGKとも協力して、何度も高いラインで相手を止め切っていた。

【ポイント②】プレスを回避して攻撃を継続できるようになった。
DFラインを高く保ち、そのラインで相手の攻撃を止めてボールを保持できたとしても、強豪国は恐ろしく攻守の切り替えが速い。すぐにボールを奪い返されて再び守備を強いられる、という負のループにはまる危険性がある。
この試合ではそのような危険を回避して、相手陣地にボールを運ぶ場面が何回も見られた。

前述したようなDFラインの高さにもその一因がある。
ボールを奪った後に、自分の後方には広いスペースが広がっているのだ。
守備の時にはリスクだったスペースが、ボールを奪った瞬間にチャンスの広がるスペースに変わる。
そのスペースを有効利用してDF間のパス、あるいはGKへのパスを選択できる。
そのようなパス交換をベースにして、相手の激しいプレスを回避できていた。

基礎技術であるパス、トラップにも安定感があった。
ここが不安定だと、激しいプレスに飲み込まれてしまう。
・味方が受けやすい位置にズレのないパスを出す。
・味方が受けやすいように綺麗に転がったパスを出す。
・相手が触れないような位置に正確にトラップする。
・次のプレーに移行しやすいような位置に正確にトラップする。
これらのプレーには安定感があったと思う。

元々、細かいパス交換や狭い地域でのパス交換という作業は、日本人の気質に合っているのではないかと感じていた。しかし、そのような作業を完成させるために必要な、パスやトラップの基礎技術がもう少し欲しい!と思っていた。
パスやトラップの小さなミスを相手につけこまれて攻撃が継続できない。
そんな場面を代表の試合でよく見た。長い間不満だった。
しかし、この試合ではその基礎技術に破綻が無かった。
相手がプレスを掛けても、次々にパスを繋いで局面を打開する。
そんな場面が何回もあった。

【ポイント③】パフォーマンスの悪いポジションが無い
チームが勝利する上で大切なことだと思う。
どこかしらのポジション(の選手)に不安定なプレーや出力の低いプレーがあれば、守備ではそこを突かれる。強豪国は特に相手の弱点は徹底的に突いてくる。
攻撃では、そこのポジションで攻撃が停滞または停止してしまう。

少し前までは「海外組」という言葉が日本代表の記事に頻出していたが、今や「Jリーグ組」という言葉の方が使われ方としては正しいような気がする。
それほどまでに海外でプレーする選手が一般的になった。5大リーグと言われる国でプレーしている選手もいるし、誰もが知っている有名クラブに所属する選手さえいる。
世界水準のプレーレベルを肌で知っている選手がほとんどなのだ。
蹴る、止める、奪う、競り合う、繋ぐ、運ぶ、抜く、かわす、考える、感じる、だます・・・試合で必要なあらゆる動作が高いレベルで遂行できる。
世界との闘いで「穴」になるようなポジションはもはや存在しなくなっていると思う。

奪ったボールをDF・GKでのパス交換で保持しながらMF・FWへ預け、敵陣へ運ぶ。
そのままボールを相手に奪われることなくアタッキングサードまで運び、同時に多くの人数もゴール前まで進出する。結果的にシュートでプレーを完結させる。
ピッチ上のあらゆるポジションがそれぞれの役割を遂行し、分断されること無く相手と互角以上に渡り合う。
この試合のそんな場面を感慨深く見ていた。


 

日本代表が変わった、レベルが上がった、と感じた訳には以上のような要因があると思った。

それでは、「日本代表のいいところばかりが目立った、未来は明るい」と手離しに喜べるだろうか?
確かに未来は明るい系統の色をしているとは思うが、まだまだ問題点はあると思う。

この試合では先制点を取ったあとに得点を奪われている。
その失点場面ではDFラインを完全に崩されてしまった。
そういう点では日本にも不安材料はあるだろう。

ドイツ代表は3人のFW(ハバーツ、ニャブリ、サネの3選手)と2人のMF(ギュンドアン、ビルツの2選手)が日本の4バックを攻略しようと圧力を掛けた。
その時の動きが巧妙で、5人が一列に並んだり、誰かが2列目に落ちてきたりして日本のマークを絞らせないようにしていた。

失点の場面では、少し下がった位置でボールを受けたギュンドアン選手に板倉選手が引きずり出されて最終ラインの枚数を1枚減らされる。
次にギュンドアン選手から、同じく2列目の位置にいたビルツ選手に横パスを出されて前を向かれ、日本の最終ラインに侵入されてしまう。
この時点で日本の最終ラインは、4対3の数的不利になっている。
左SBの伊藤選手が慌ててビルツ選手のマークに行くが、その代償としてサネ選手がフリーになってしまった。そこへラストパスが通り得点を決められた。

板倉選手が最終ラインから引きずり出されたのはしょうがないとは思うが、なぜビルツ選手があんなにフリーになっていたのか?
そこのところのマークの緩さは残念に思った。

また、右SBのキミッヒ選手が極端に中央へ絞る動きをしていたため、そこへ誰が付くのか?という点も徹底できていなかった。
左ボランチの守田選手なのか、それとも三笘選手なのか・・・
ドイツとしては、まずその混乱を日本に生じさせる。その上でビルツ選手が曖昧なポジションを取れば、必ずマークされずにフリーでプレーができる、というゲームプランだったのかもしれない。

何が問題点かを見極めることと、その問題点を修正することは試合の真っ最中に選手がやらなければならない。
短い合流時間で試合に臨む代表チームは特にそういうことが難しい課題になると思うが、強豪国であるほど、試合中に多くの問題点を生み出してくる。
前半の日本の失点を見て、そのようなことを考えた。


 

後半に入ると日本は3人のセンターバックを揃えて、5バックにする。
守備時に5-4-1の陣形を整えて重心を下がり目にすることで、前半の問題は解消できたと思う。
そして、見事なカウンター攻撃から2点を追加して4-1で勝利した。

守備重視のシステムに変更したので後半は攻撃を受ける場面が多かったが、もう今の日本にはパフォーマンスが悪いポジションがないのである。
ほとんど決定的なチャンスを作られることなく、堅い守りを見せてくれた。

前半と後半で性質の異なるサッカーを試せたことも大きな収穫だったと思う。

 

【雑感追記】

■サネ選手に日本の左サイドを突破されることが何回かあった。最終ラインでの1対1で違いを作られてしまうのはまずい。

■4バックで高いDFラインを敷いてコンパクトなプレーエリアで勝負するサッカーの場合、1トップは上田選手が適任だと思う。フィジカルの強い上田選手がボールキープできることによって、攻撃が継続できる、敵陣に相手を押し込める、というメリットが生まれる。「4バック、高いDFライン」という攻撃的なシステムではそこが重要だと思う。

■冨安選手が凄かった。45分、抜け出したサネ選手に追いつきスライディングで止めたプレーも凄かったが、72分に同じくサネ選手を、追いかけながらショルダータックル1発で飛ばしたプレーに絶句してしまった。相手もハイスピードで走っている時のショルダータックルは、少しでも当たりがズレたら体が入れ替わってしまうという怖さがあると思うが、圧巻のプレーだった。

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