2023 J2リーグ第30節 FC町田ゼルビア ー ジュビロ磐田

2023年8月12日 @町田GIONスタジアム

現在、J2で1位(町田)と2位(磐田)の上位対決の備忘メモ。
磐田は、勝てば首位を独走中の町田に勝ち点差「3」に迫るチャンスだった。
しかし、結果は町田が2-1で勝利。勝ち点差は逆に「9」に広がった。

当然ながら両チームとも勝利が絶対に欲しい試合だった。
そんな一戦を振り返ってみたい。
勝敗を分けるようなプレーはあったのだろうか?

試合開始直後、町田のプレスの強さが目立つ。
プレスというか・・・普通のプレスとはなにかが違う。

チーム全体で連動しながら動き、相手のパスの出しどころを徐々に限定していってボールを奪うプレーが通常のプレスだと思う。
しかし、町田の場合はそんな感じではない。

相手のボールホルダーに最も近いファーストディフェンダー役の選手が、独力でボール奪取を完結させてしまおうとする感じなのだ。
もちろん、連動する動きもあるのだが、とにかくファーストディフェンダーの圧が強い。
自分ひとりの力で、ボールを奪い取ろうとする殺気を感じさせる「プレス」である。

このような町田のプレスに、磐田はボールを失ってしまったり、大きく蹴り出したりする場面が多い。そのため、ボールを繋いで効果的な攻撃を行うことができない。

また、一方の町田はロングボール主体の攻撃である。
後方から、エリキ選手や藤尾選手をターゲットにするロングボールを入れてくる。
しかし、磐田のDFも粘り強く競り合い、町田の攻撃を分断する。

試合開始からしばらくは、要するに両チームのつぶし合いのような展開が続いた。
しかし、時間の経過と共に磐田が町田のプレスに慣れてきたのか、徐々にボールを保持するようになってきた。

磐田のボールホルダーが最も視認しやすい位置、パスを出しやすい位置にサポートがある。
町田の選手が強烈に寄せて来ても、そこへパスすることにより圧力を上手くいなせられるようになってきた。

町田のプレスは強烈であるが、連動性はそれほど組織的ではないように感じる。
そのため適切な位置へのサポートにパスを出せれば攻撃は継続できる。
ただし、その行為を連続させなければならないが。
30分頃から、磐田はそのようなプレーでボール保持をしながらアタッキングサードへ進出して行った。そしてシュート、あるいはラストパスで終わるプレーを見せ始めた。

町田のプレスをいなすには、まずトラップを正確に行うことが求められる。
少しの乱れが命取りになる。
瞬時に次のプレーへ移行できる体勢を取れないようなトラップ、つまり、体から離れてしまうようなトラップやボールが浮いてしまうようなトラップは、高い確率で町田のプレスに引っかかる。
ボールを奪われて、そのままの勢いでカウンターを受けるようになる。

正確なトラップを連続して行うことが、対町田の試合では特に大事だと感じた。
もっとも、良いトラップを行うには良いパスが必要だ。
ずれたパス、強すぎるパス、弱すぎるパス、浮いてしまったパスなどでは良いトラップを行うことがより難しくなってしまう。
「止める、出す」のプレーは、まさにサッカースキルの基本であるが、この基本が激しいプレッシャーを受けている状態で発揮できるかが重要だ。
レベルの高い上位対決の試合であるが故に、そのようなプレーがより一層求めれられるのだと思う。

前半の磐田は、高い技術レベルのパス、トラップを駆使して試合をやや優勢に進めていた。
足りなかったのが得点を奪うシュートだった。

磐田がペースを握った形で前半が終了するかという時間帯の43分、町田の右SB鈴木選手がロングボールをCFの藤尾選手へ送る。
藤尾選手はペナルティエリア内で、相手DFに背を向け巧みに胸トラップすると鋭く反転して2人のマーカーの間を突破する。
CBの鈴木選手がたまらずに後ろから掴んでしまい、PK、イエローカードとなった。

このPKをエリキ選手が決めて、町田が先制する。
ロングボールを打ち込むことによって、相手ゴールに近い位置での局地戦に持ち込む戦法が成功した。
これがあるから、いくら優位に試合を進めていたとしても、町田の対戦相手は全く安心ができない。

中盤での構成を省略して、前線の選手にロングボールを届ける戦法にはメリットとデメリットがあると思う。
メリットは、ロングボールがFWに収まった場合、または相手DFがミスをした場合に、その地点がすでに相手ゴールに近いため得点のチャンスがより大きくなること。
中盤で攻撃を組み立てている時にボールを失って、相手のカウンター攻撃を受けるような危険性が無いこと。
などが挙げられるだろう。

デメリットは、ロングボールから攻撃を継続して得点に結びつけることが、一般的には難しいということだろうか。

ロングボールを受けるFWはDFの厳しいマークを受けながら、プレーを継続するためにトラップやキープの技術を駆使してボールを自分の支配下に置き続ける必要がある。
遠方から飛んで来るロングボールをDFと競りながらヘディングなどのダイレクトパスで味方に合わせる技術も、同様にかなりの技術を要するだろう。
一方、そのFWをマークするDFはロングボールが来るまでの比較的長い時間を使って万全の守備体勢を取ることができる。
その上で、ボールをつっ突く、FWの体勢を崩してプレー不能にする、体を寄せてミスをさせる、などの技術を、どこかのタイミングで実行できれば良い。
単純にプレーの難易度で言ってしまえば、ロングボールの対応プレーはFW側が難易度高め、DF側が難易度低め、ということになるかと思う。
(ただし、そのかわりにDFはFWに仕事をさせないプレーを絶対的に求められる。90分を通してそのプレッシャーに晒され続ける過酷な役割を担っている)

だから、最終ラインからのビルドアップに始まり、中盤での組み立てを丁寧に行う「ボールを大事にする攻撃」を志向するチームが多く存在するのだろう。
ロングボール攻撃は割に合わない、と判断するチームは多いと思う。

しかし、もし味方からのロングボールを失わずに自分の支配下に置くことに長けている選手がいるチームならばどうだろうか。
ロングボール攻撃のメリットが期待できる以上、それを多用しない手はないだろう。
町田はそんなチームだと思う。

そして、後半に入った53分にも同じような攻撃で町田が追加点を挙げる。
自陣の右サイドから松井選手がロングボールを前線に送る。
そのボールがそのまま藤尾選手へのスルーパスのような形になり、抜け出した藤尾選手はGKとの1対1になる。
追いすがるリカルドグラッサ選手がたまらずに後ろから倒してしまい、PK、イエローカードとなった。
藤尾選手が自らPKを決めて2点のリードを奪う。

2点のビハインドを追いかけて攻勢に出る磐田だったが、町田もアグレッシブな守備で迎え撃つ。
町田の守備陣形の基本形は4-4-2だと思う。
しかし、最終ラインの「4」を除いた「4-2」が流動的に動いて磐田のビルドアップを寸断する。
独力でもボールを奪おうとするような走力で、ボールホルダーを追い回す。
自分の本来のポジションから、かなり離れて大きく動く。
4-4-2という定型のシステムに収まらない守備陣形だ。
4-2-2-2のような形になるケースが一番多いだろうか。
そして、もし磐田に自陣まで侵攻されても帰陣が速い。
決定的な形を作られる前に、ゴール前に守備ブロックを形成して磐田の攻撃をはね返し続けた。

アディショナルタイムの94分
磐田GKの三浦選手が、町田の中盤を飛び越えるロングボールを松原選手に送る。
上がっていた左SBの松原選手は、ダイレクトのヘディングクロスを前線の後藤選手に送る。
そのクロスを後藤選手が競り勝ち、再び松原選手にヘディングで落としたボールを巧みなボレーで決めて1点を返した。
このゴールだが、GKのロングキックと松原選手のヘディングで、町田の中盤の守備者が置き去りにされてしまっている。
対ビルドアップ用の守備隊形の影響で、薄くなっていた4バックの前のスペースを突かれた町田の失点だった。

結局、この試合の3つの得点は全てロングボールを起点にして生まれた。

 

【雑感追記】
町田の選手は誰もが優れた走力を持っていると思う。
その中で、特にエリキ選手と藤尾選手の走力、ドリブルは印象に残った。
トップスピードに乗っても体幹が全くブレない。
両足を地面にしっかりと踏ん張っているかのような安定さで疾走する。

こういう選手に対抗するにはチャージング自体の方法を考える必要があるのではないか、と思ってしまう。
並走してショルダーチャージというのは定石だが、それだけでは止まりそうもない。
相手の前に足をねじ込んで体を入れる、相手のへそまで体を入れる、それぐらいでないと止められないように感じる。

1点目のPKを誘発した藤尾選手の突破も、2人のCBで挟んでいたのに止められなかった。
正対した場合にも、相手のへそ目掛けて入っていかないと止められないのではないか。(それってファウルだろうか?)

「へそに入る」
なんだかラグビーの教本に書いてありそうな言葉である。

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