2023年7月9日(日) @国立競技場
J2で首位の町田と2位の東京Vが、国立競技場で対戦した備忘メモ。
お互いに4-4-2システムを取るチームの一戦。
両チームの試合は今季の序盤に1度づつ見たことがあったが、町田は強力FWを擁して縦に速い攻撃をするチームという印象がある。
対する東京Vは最終ラインからも丁寧にボールを繋いで、サイドから崩そうとするチームという印象である。
「剛の町田」に対して「柔の東京V」というイメージを持っているのだが、実際の試合はどうだろうか。
1位と2位の直接対決で、どんなことが起こるか見届けたい。
試合開始。まずは町田の守備について。
2トップの守備はやはり鋭い。エリキ選手と藤尾選手の2人がプレッシャーを掛ける。
対する東京Vは、GK、2人のCB、ボランチの1人の4人が菱形になってビルドアップする。
この時に町田の2列目、4人のMFのうちの誰かが2トップの守備に加担するような傾向は、あまり見られない。
このゾーンでは、無理をしてでもボールを奪い切るというプランは無いようだ。
2トップによる守備が突破されると、次に控える「4」の守備になる。
もちろん、ボール保持者には厳しくチェックに行く。特に縦への突破は許さない。
しかし、このゾーンでも、例えば複数人で相手を囲い込んでしまうような、労力をかけた守備はあまり見られない。
町田の中盤での守備は「奪えれば奪う。しかし無理ならば深追いはしない」というような守備だ。厳しいチェックには行くが、かわされて置き去りにされてしまうリスクを避けているように見える。
その結果、あたかも相手を導くかのように自陣に下がっていき、MFの4人と最終ラインの4バックが4-4の守備ブロックを形成する。
町田はこのブロックに自信を持っていると思う。
自信があるために、ブロックが完成する前の守備隊形で過度な無理をしない。
それさえ作ることができれば攻撃をシャットアウトする自信があるからだと思う。
実際、町田の守備ブロックは非常にタイトで、一人ひとりが非常に献身的だ。
ブロック内に侵入してフリーでシュートをうつのは相当に困難だろう。
意表をつく動き出し、その動きにピッタリ合わせるパス、そのパスをダイレクトシュート、という一連の流れが全て成功して初めてフリーシュートが成功する、くらいの堅牢さだ。
ただし、このような「半リトリート的」な守備を町田が選択しているのは、この試合の展開のせいかもしれない。
開始2分で町田がいきなり先制している。
もし、守備ブロックに絶対の自信があれば、このまま1-0で勝利しようとするプランがあってもおかしくはない。
先制点が町田の守備重心をやや後方に移動させたかもしれない。
ただし、後方一辺倒ではない。前線、中盤、それぞれのゾーンでの守備強度は高い。
東京Vにしてみれば、各ゾーンを苦労してくぐり抜けて、初めて最終ラインの高い壁に挑む、というような感覚ではないだろうか。
やはり遅攻よりは速攻が主体になる。
遅攻になりそうな局面でも、シンプルに近くの味方へパスを出しながら早めに前線方向へ長めのボールを供給していく。
遅攻の時間はあまり長く続かない。(それを遅攻とは言わないが・・・)
町田の攻撃は、異なるパターンの「カウンター攻撃」を繰り出す攻撃だと思う。
第1のパターンは、相手に攻め込まれた状況から逆襲のカウンター攻撃。これは良く見る正統派のカウンターだ。
ゴール前の守備を固めていた状況から相手ボールをカットして、パスやドリブルで一気に相手陣地へ攻め込んでいく。
この試合でも前線のエリキ選手などが、鋭い正統派のカウンターを何度か見せていた。
第2のパターンは、いわゆるショートカウンターの攻撃。
町田の前線、中盤での守備は「奪えれば奪う。しかし無理ならば深追いはしない」ような守備だと前述した。
ということは、奪える時には奪う。
例えば、東京Vの選手が町田の選手に背中を見せてボールキープしているような時。
相手と正対していないために、状況を把握する視野が確保できない。
そのような時には、一転して奪いに来る。
この試合の38分、東京Vの稲見選手が自陣で味方のスローインを受けた。
その際に、浮いたボールをトラップした流れで背中を見せるような体勢になってしまう。
しかも少しトラップが流れてしまい、ボールが体から離れてしまう。
その瞬間的な状況を見逃さずに町田の下田選手がボールを奪い去ると、下田選手→エリキ選手→安井選手とパスが渡り得点に結び付けた。
第3のパターンは攻め込まれてもいないし、相手からボールを強奪してもいないのに、突如として発動させるカウンター攻撃である。
この試合の先制点もそうだったが、なんとなく出したような縦パスでも、直線的な推進力がある前線のアタッカーがチャンスにしてしまう。
そこへ他の選手がちゃんとフォローするので相手も対応が難しくなる。
攻撃陣がスピードにのってゴール方向へ攻める、守備陣は追走する、という図式がカウンター攻撃そのものである。
突発性カウンター攻撃というような感じ。
この第3のパターンは町田の特徴的な攻撃だと思う。
守備側にとって大きな混乱をもららすカウンター攻撃だが、試合を通じてかなりの頻度で発動できるチームではないだろうか。
そこが首位を快走する町田の強さの一つだと思う。
強力な町田の攻撃に対応するために、特別な対策と言えるようなことはしていないと思う。
町田のカウンターが強力だと言っても、誰かを引いて余らせておくようなことはしない。
両SBは高い位置を取って攻撃に加わるし、ボランチの2人もそうだ。(2人のうち1人はやや下がり目に位置する傾向があるが)
あくまでも、2人のCBが中心になって対応するという形である。
もちろん、町田の攻撃に多少の時間が掛かればSBやMFが素早く帰陣してくる。
そうなれば東京Vも町田同様に4枚ー4枚の守備ブロックを作って堅く守る。
しかし、この試合、町田のボール保持率は30%であり、町田が東京Vの守備ブロックを包囲してじっくりと攻略しようとするような場面は極めて少なかった。
なのでクローズアップされるのは、2人のCBが町田の縦に速い攻撃をまずは一旦止められるか、ということだったと思う。
東京VのCBは能力が高く、試合を通してそのタスクはできていた。
前半の2失点も町田の突破者には対応していた。しかし、突破者のフォロワーにゴールを許してしまった。
相手CBとの1対1勝負には必ず誰かがフォローに入る、という点で町田の攻撃が1枚上手だったということだと思う。
とにかくサイドの攻防で優位性を取れている点が目立った。
右の甲田選手、左の北島選手がタッチ数の多いキープと揺さぶりでボールを簡単には取られない。
そこに両SBも絡んで来る。
町田の守備ブロックに対して、前半から何回かクロスで好機を作っていた。
ここで町田の守備についての追記。
守備ブロックに侵入しようとする相手には非常にタイトなチェックを行う。シュートを試みる相手には身を投げ出してブロックする。
ただ、ゴール前に入れられたクロスに対して、ボールの落下を待ち構えて対応する傾向があるのではないだろうか。
前半にも、東京Vの選手がクロスに飛び込むがわずかに届かず、その後ろでヘディングクリアするような場面が何回かあった。
クロスに対してできるだけ前向きで跳ね返す、その結果相手選手と空中で競り合う、という強さが物足りなかったように見えるのだ。
その他の場面での守備強度が高かっただけに、余計にそう感じてしまった。
そのような傾向が如実に表れた、とまでは言わないが、後半に東京Vの強みであるサイドからのクロス攻撃が実を結ぶ。
染野選手がヘディングシュートで2得点して同点に持ち込んだ。
途中交代でサイドの選手が変わっても、試合を通してサイドから相手を崩せていたのが東京Vの攻撃だった。
そして、染野選手の2点目をアシストした新井選手。
その突破力が印象に残った。
69分に左サイドを深く突破して、ゴールラインの間際で鋭く切り返す。
すると、切り返しと同時に完璧なシュート体勢が取れている。
ボールスキル、バランス感覚、体幹、これらが凄いのだろうか?
GKとポストのすき間を狙った至近距離の強シュートは、惜しくもポストを叩いた。
サイドでDFと1対1になった時に、サイドプレーヤーは緩急の動きでDFを抜こうとする。
このような場合「緩」が静止に近い「緩」になってしまうことが多い。「緩」ではなくて「止」である
しかし、新井選手の場合、この「緩」が本当に「緩」で、フワーとした感じで微妙に動いている。止まらない。
そこから急激に出るのでDFは対応しにくいと思うのだ。
「あっ!緩になった」という判断が一瞬遅れると思う。そこで慌てて「緩」の対応を取るとその瞬間に行かれてしまう。
東洋大学に所属するJリーグ特別指定選手だそうだ。
Jリーグの舞台で経験を積んで、素晴らしい選手になって欲しい。
国立競技場に大観衆を集めた上位対決は、お互いに持ち味、強みを発揮して2点を取り合った。
簡単に言ってしまえばそうなるが、面白い試合だった。
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