2023高校総体サッカー静岡県大会 決勝 静岡学園ー清水桜が丘 備忘メモ

2023年6月4日(日)@エコパスタジアム

高校総体(いわゆるインターハイ)の静岡県予選の備忘メモです。

今年の男子サッカーの決勝戦は、静岡学園と清水桜が丘の対戦になりました。
静岡学園は現在プレミアリーグにも所属する強豪校で、個人技を前面に押し出したサッカーが特徴です。
一方の清水桜が丘も県内で有数のサッカー強豪校です。

プレミアリーグの静岡学園が優勢に試合を進めるような気がしますが、清水桜が丘がどのようなサッカーで対抗するのか興味があります。
実は昨年のインターハイ県予選でも、静岡学園は優勝した磐田東高校の守備を崩せずに準決勝で敗退しています。
全国的な強豪校として知られる静岡学園でも、県予選を制覇することは容易ではありません。
どのような試合が展開されるのか非常に楽しみです。

 

 

試合開始 ~主導権の握りあい~

試合開始後、まず目立ったのは清水桜が丘の人とボールがダイナミックに動くサッカー。
鋭いボールへの寄せで相手を自由にさせないため、静岡学園もなかなかボールを落ち着いて保持できない。

静岡学園のボールやルーズボールに積極的にチャレンジして、清水桜が丘がボールを保持する場面が多い。
そして、ボールを奪うと前線のCFや相手SBの裏側のスペースへのロングボールを多用する。
このロングボールが効果的だった。

清水桜が丘のシステムは4-1-4-1だが、この時間はサイドのMF2人が前線に積極的に参加して、3トップのような形になっている。
その3トップが、ロングボールによって後ろ向きに戻る静岡学園の最終ラインにプレッシャーをかける。それに伴い全体のラインが押しあがる。
静岡学園といえども、そのようなパワーバランスから攻勢に出るのは難しく、試合開始からしばらくは清水桜が丘がやや優勢になっている印象だった。

しかし、試合開始から10分が経過した頃から、徐々に静岡学園がペースを掴んできた。
ボールを保持しながら、相手を押し込んでいくという自分達のサッカーを展開するようになった。

静岡学園は各選手のボールを扱う技術が高い。
そのため、ボールを保持した場合に、その状態を長くキープする能力や局面を打開してゴールに迫る能力が高い。

相手とすれば、当然そのような能力を発揮させたくないわけである。
そのためには、ボール扱いの上手い静岡学園に対して守備強度を1段階上げて臨む必要がある。
より強く体を当てて相手の態勢を崩し、意図するプレーを妨害する。
より強くボールにアタックして、意図するボールスキルを阻害する。
このように、いつもよりも具体的な守備行為が求められる。

序盤にはそのような具体的な守備ができていた。
しかし、時間の経過と共に、微妙に守備の強度が低下したように見えた。
厳しいコンタクトプレーを仕掛けていた守備から、相手の出方を窺うリアクション的な守備へ変化してしまったようだった。
こうなると、静岡学園のボールスキルが顕在化してくる。そして試合の主導権を握り始めた。

静岡学園の攻撃時、両方のサイドバックは高い位置を取って攻撃参加する。
位置的には、中盤のアンカーの位置ぐらいにポジショニングすることが基本だと思う。
そこからウイングを追い越すようなプレーや、中へ切り込んでシュートまで持ち込むようなプレーを見せるのだ。
非常に攻撃的なサイドバックである。

ちなみに、選手の基本的な位置関係は下図のようになる。
サイドバックが高い位置に上がることで、3トップ、1アンカーの3人のMF、そして2人のサイドバックが多くの三角形を形成する。

もちろん試合中には選手が様々な動きを継続するので、あくまでも基本形でしかないが、攻撃時に選手が三角形を作りやすいということはあると思う。

実際に、壁パスやショートパスでの打開や、ボールを奪われた時に見られる即時奪回のプレスは、上記のような位置関係のメリットを活かしていると言えるだろう。

 

 

欠けているピースを埋めるフィニッシャーの存在

静岡学園が相手陣内でプレーする時間が多くなってきた。

同校が県予選で試合をする場合、このような展開になることが多いと思う。
テクニカルで多彩な攻撃は、見ていても面白い。

ただ、対戦相手はこういう展開を十分に想定している。
ボールを支配されて、自陣に引く陣形を取らされるのは覚悟の上で試合に臨んでいるだろう。

公式戦の県大会で、度々対戦するような強豪校は静岡学園に攻められ慣れている、と思う。
なので、静岡学園が攻め続けながらなかなか得点できないという場面が大事な試合で発生し、カウンターの1発に沈む、あるいはスコアレスのままPK戦で敗退、という現象が起こってしまうのだ。

しかし、チャンスをゴールで終わらせるフィニッシャーの存在があれば、このような悔しい思いをする確率は減らせるはずである。
そのような存在になりうるCFが、⑨神田選手である。

この試合の17分、⑩高田選手が⑯田島選手との緻密な壁パスで抜け出して、右サイドからグラウンダーのセンタリングを送る。
そのセンタリングをゴールに背を向けてトラップした神田選手、回転しながら鋭いシュートを放ったがCB藤田選手のブロックで惜しくもゴールはならなかった。

ゴールはできなかったが、トラップの正確さ、回転の滑らかさと足の振りの速さにストライカーとしての能力を感じました。
静岡学園の選手らしく、足下にピタリとトラップするので回転半径が小さくて済み、シュートまでが速い。

また、右から来たボールをゴールに背を向けて止め、体を時計回りに回転させてシュートしている。
この場合、普通は少しでも早くシュートするためにゴールの左、ファー側にシュートしたくなると思うのだが、神田選手はしっかり腰を入れ余分に回転してゴールの右、ニア側にシュートしている。
GKはファー側を意識した倒れ方をしているので、藤田選手のブロックがなければゴールしていただろう。

神田選手なら静岡学園の欠けているピースを埋める存在になれるのでは?
そんな予感を抱かせる一連のプレーだった。

 

 

センターフォワード対センターバック 白熱の局地戦

その後も静岡学園の優勢は変わらない。
しかし、17分のチャンスの後はお互いに大きなチャンスを迎えることなく、前半が終了した。
そして、後半に入っても静岡学園のペースで試合が進む。

48分には右SBの泉選手のクロスからCF神田選手がヘディングシュートを放つが、ポストにはじかれてしまう。
神田選手にピタリと合う素晴らしいクロスだった。

決定機は逃したが、静岡学園が攻め込む展開が続く。
しかし、徐々に清水桜が丘の守備が猛攻に慣れてきたように感じられる。
なんというか・・・ボールは持たせるが最後のところはやらせない、というような全体の意思統一を感じさせるのだ。

特にエースの神田選手をマークする2人のCB、④木村選手と⑤藤田選手が頑張っている。
主にマークするのは木村選手だが、相手選手の動きによっては藤田選手がマークする時もある。
その辺の受け渡しが非常にスムーズである。
完全に2対1の数的優位を保ちながら守っている。
特に、主担当の木村選手は身長こそ高くはないが、体にバネがある。
ジャンプ力がありヘディングの競り合いでは負けないし、マークを剝がされそうになっても体が伸びて来る。相手に瞬間的に寄せることができる。

このような清水桜が丘の守備を見ていたら、なんだか過去に何回か見てきた光景が頭をよぎった。
そう、圧倒的に攻めながらも勝ち切れない静岡学園の姿だ。

そして、そのような予感が現実になる? と思わせるような場面がやってくる。

 

 

ついに到来したチャンス 劣勢からの先制点。

後半の給水タイム明けの63分。

センターサークル内のこぼれ球を清水桜が丘の⑫岸選手が前方の⑪小林選手へパス。
小林選手はその前のプレーでヘディングで競っていたために尻もちをついていた体勢だったが、浮き球のパスに右足を延ばして、さらに前方の⑩遠藤選手にパスを送る。
遠藤選手は背後にマークを受けながらも、左SBの五十嵐選手がオーバーラップするオープンスペースへボールを送り込む。
五十嵐選手はフリーの状態である。ボールに追いつくとダイレクトでアーリークロスを放った。

ボールはグラウンダーで見事な軌道を描き、静岡学園の左SB吉村選手とGK中村選手の間へ流れていく。
吉村選手がスライディングしながらクリアするかと思われたが、あまりにもGKとの距離が近かったせいだろうか、クリアを自重する格好になりボールが2人の間を通り過ぎてしまった。

そこに走っていたのが⑦相川選手だった。
インサイドで慎重に合わせたボールがゴールのど真ん中に突き刺さる。

静岡学園 0ー1 清水桜が丘

この得点だが、清水桜が丘がSB裏のスペースの攻略に成功した場面とも言える。
高い位置をとることが多いSBの裏のスペースは、清水桜が丘も最初から狙っていた。
これまでも、このスペースめがけてロングボールを蹴ってくる場面が目立っている。

しかし、あまり有効なチャンスには結びつかなかった。
なぜならロングボールがあまりにも単発で正直すぎて、静岡学園のCBのカバーやSBの戻りに対応されてしまっていたからだ。
よーいドン!のタイミングで蹴ってくるロングボールには味方も走り込むが、当然相手も同じように走ってくる。
そのため、落下地点でボールを奪われたり、カットされたりすることが多かった。

でも、得点の場面はそうではなかった。

一発でSBの裏を狙うのではなくて、その事前作業として2本のショートパスをつないでいる。
そのショートパスに静岡学園のDF陣が対応した。その時点で相手を止められなかった。
そのため、肝心のSBの裏スペースにボールが出た時に、対応する人材が足りなくなってしまったのだ。

2本のショートパスを入れることで、相手の守備人材を枯渇させた。

 

 

このパターンは・・・絶体絶命の静岡学園

劣勢の状態から先制点を奪った清水桜が丘。

こうなると、より一層の徹底守備を敷くようになる。
静岡学園の攻撃を監視しながら、リトリートしてゴール前の守備を強化する。
時折のマイボールは大きく敵陣へ蹴り出す。無理につないで攻めようとしない。

時間はどんどん過ぎて行き、静岡学園の敗退が濃厚になってきた。

「静学が負けるときのパターンだよなぁ・・・」

そう思ってしまったアディショナルタイムの83分(40分ハーフ)だった。
静岡学園の最終ラインから㉔水野選手が最前線にロングボールを放り込む。
そのボールは神田選手に正確に届く。
しかし、いつものようにCBの藤田選手がマークについている。

神田選手はジャンプしながら胸トラップした。
ロングボールの質から、ヘディングすると思ったのでちょっと驚いた。
しかも、胸トラップしてボールキープに入るのではなく、そのまま振り向きざまボールの落ち際をインステップのハーフボレーで決めてしまったのだ。

静岡学園 1-1 清水桜が丘

①ヘディングするだろう。
②胸トラップしたならばキープに入るだろう。

というように、自分の予想を2度裏切るプレーを見せてゴールを決めた。
おそらく対応した藤田選手も予想とは違うプレーをされたので、プレッシャーを掛けられなかったのではないだろうか。

エース神田選手のスーパーなゴールで、静岡学園が絶体絶命の窮地から生き返った。

 

 

両校大健闘の試合は、延長戦で決着

1-1のまま延長戦に入った。

延長前半の1分、ペナルティエリア内の神田選手へくさびのパスが入る。
神田選手はワントラップの後、CBの木村選手を引き連れながらゴールに向かって右方向へドリブルを開始する。

これまではこのような場面で、木村選手は神田選手を厳しくマークできている。
いい形でシュートをうたれていなかった。
しかし、神田選手が大きくボールを出してグッとスピードを上げた時、体に寄せることができず、
シュートコースへスライディングするのが精一杯になってしまった。

ここまで終始、神経を尖らせながら厳しいマークを徹底してきたのだ。
この延長戦で、ほんの少しだけマークがずれてしまうのは無理もないことだと思う。

神田選手のシュートは木村選手のスライディングをすり抜け、遠い方の左ポストに当たりながらゴールマウスに吸い込まれていった。

静岡学園 2-1 清水桜が丘

静岡学園に勝ち越された後、清水桜が丘は果敢に攻めた。
土壇場で同点に追いついてもおかしくないような攻撃を見せた。勇敢に戦った。
しかし、キープ力に優れる静岡学園は有効に時間を進め、このままのスコアでタイムアップになる。

両校大健闘の決勝戦は静岡学園が勝利。
全国総体への切符を手にした。

 

 

チーム別所感:静岡学園

ボール扱いの高い技術をベースにして試合を優勢に進める、例年通りの静岡学園だった。
また、ボールを奪われた後の切り替えも速く、相手を複数人で囲んで即時奪回する姿も例年通りだったと思う。

静岡学園の、特に中盤の選手はトリッキーで意表をつくプレーをするというイメージがある。
しかし、この試合を見る限りではあまりそのようなプレーはなくて、本当に基本通りの「止める」
「運ぶ」「出す」というプレーを淡々と繰り返しているように見えた。
静学らしからぬ「渋い中盤」という感じだった。極めて個人的な感想ですが。

あとは何と言ってもエースストライカーの存在でしょう。
試合を完全に支配していても肝心の得点が取れない時がある、という同校の悩みを解決する存在だと思う。

特にペナルティエリア内のプレーになると、力が入り過ぎてプレーが粗雑になってしまうFWを見ることがある。
しかし、神田選手はそのような力みを全く感じさせないFWである。
ペナルティエリア内でプレーすることが当然のように、ごく自然にプレーする。
大事な場面で、実力を100%出せるFWではないだろうか。

あと、SBの裏のスペースを突かれて失点を許したが、攻め込んでいる時にできるスペースのリスク管理は重要になってくるだろう。

全国大会での静岡学園の活躍を期待したい。

 

 

チーム別所感:清水桜が丘

試合序盤はハードなコンタクトプレーで相手を押し込んだが、すぐにペースを奪われ守勢に回る時間が多かった。
それでも、試合を通しての試合運びは見事だった。
静岡学園の猛攻にも慌てることなく対応して、要所を締める。
そして、数少ない好機を活かしてゴールを奪った。

本当に、あともう少しで勝利を手にするところだったのだ。
そこのところは自信になると思うし、実際に貴重な経験をしたことに間違いは無いと思う。

清水桜が丘の特徴として、長めのボールを早めに前線へ送る攻撃があると思う。
たとえ、前線が数的不利な状況でもロングボールを送り込んでいく。
試合の入りで、そのような攻撃で静岡学園を守勢に回らせた。
しかし、できればもう少し、数的同数または数的有利の状況を利用する攻めも必要ではないかと思うのだが、どうでしょうか?・・・
ゴールを奪った時の崩しが見事だっただけに、そう思ってしまいました。

ボール保持率の高さが必ずしも勝利に直結しない、ということがサッカーにおいてよく言われる。
試合には残念ながら敗れてしまった。
しかし、この試合の清水桜が丘は、そう言われることが納得できるような試合を見せてくれた。

相手の攻撃を耐え忍び、数少ないチャンスにチーム力を結集させて結果を出す。
これもまた、サッカーの魅力の一つであると思う。

その魅力を体現した清水桜が丘の先制点は、自分の中で忘れがたいシーンである。

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