2023年5月6日(土)@埼玉スタジアム2002
赤一色に染まった満員の埼玉スタジアム2002で行われる第2戦。
各スタンドの、圧巻のコレオグラフィーが選手を迎えます。
バックスタンドには巨大な飛行機「URAWA AIR」が飛んでいる。
飛行機が描かれた超巨大な横断幕ですが、よく見ると2階席の通路に横断幕の上端を持ったサポーター、1階席の通路に下端を持ったサポーターがいます。
そのサポーターが移動することで「URAWA AIR」が雄大に飛行しているように見えるのです。
壮大な演出に驚きましたが、あの横断幕の上下の寸法ってどうやって出したのだろうと余計なことを考えてしまいました。
短すぎればダメだし、長すぎても飛行機がたるんでしまう・・・
そんなことより試合の方は、おそらく、アル・ヒラルが攻める、浦和が守るという傾向が強くなると予想されます。
第1戦では、前掛かりになったアル・ヒラルの隙を突いて浦和が得点を奪いました。
どうしても得点が欲しいアル・ヒラルに、第1戦と同じような隙は生まれるのでしょうか?
そのような隙を浦和は突きたい。
しかしその前に、猛攻を仕掛けるであろうアル・ヒラルを抑えきることができるでしょうか?
個人的には、アル・ヒラルが最終ラインの前の中盤の守備を、どの程度重要視するかに注目していた。
試合が始まってそのゾーンは、オタイフ選手とカリージョ選手が2人で見ているように見える。
いや、カリージョ選手はオタイフ選手よりは自由に動いているだろうか・・・
試合開始からカリージョ選手にパスが集まり、そこからアル・ヒラルの各選手へボールが配給される場面が目立っている。
カリージョ選手は、やや下がり気味の位置にいるように見えるが、ゲームメイカーとしての役割を任されているのだと思う。
一方のオタイフ選手は、4人のDFの前にべったりと位置している。多少は左右に動いてプレスを掛けることはあるが、高い位置まで上がっていくことはないようだ。
第1戦、一人で中盤の守備を担当するような場面が多かったカンノ選手は、第2戦では3トップに近い位置にいることが多い。
得点が必要なアル・ヒラルは、3トップに変更してゴールに近い位置に多くのFWを配置。
一方で中盤の守備は、専任者を置くことでしっかりと担保している。
19分、ハーフラインから浦和陣地に少し入った左サイドで、アルハムダン選手がボールキープする。
しかし、浦和も2人がかりの厳しいチェックで伊藤選手がボールを奪い、興梠選手にパス。
第1戦には、このような形でボール奪取した時に、中盤には広いスペースが空いていて浦和のチャンスとなる場面があった。
しかし、この試合ではオタイフ選手が常に中盤の危険なスペースを埋めている。
また、この場面ではアルハムダン選手の危なっかしいボールキープを見てか、カンノ選手が前もって下がり気味の位置にポジショニングしていた。
パスを受けた興梠選手は横にいた小泉選手へショートパスを送ったが、小泉選手はドリブルおよびパスコースを見つけられずにDFラインへバックパスをするしかなかった。
第1戦とは違い、アル・ヒラルが中盤の守備をしっかりとマネジメントしているように見える。
21分、オタイフ選手が右サイドから左サイドの深いところにクロスを送る。
そこまで上がっていたアルブライク選手がヘディングでゴール前に折り返す。
このボールをクリアした酒井選手だったが、上手く足にミートさせられずにペナルティエリア内で再びアルブライク選手に拾われてしまう。
アルブライク選手→カリージョ選手→ミシャエウ選手とボールが移動し、ミシャエウ選手がエリア内に入った位置で中央から右向きにドリブルする。
ゴール前の危険なゾーンでミシャエウ選手にドリブルさせてしまうのは、浦和にとって非常にまずい。
眼前のマーカーをかわしてシュートを打つ時間を作ることは、彼にとって容易なことのように思えるのだ。
マーカーが無理にアタックしてPKを与えてしまうことも考えられる。
2人のマーカーで挟み込むようにしないと安全ではないだろう。
果たして、第1戦と全く変わらないキレのあるドリブルでホイブラーデン選手をかわし、右足のシュートに持ち込んだ。
ゴールの右隅が空いており、そこに飛んだら危なかった。
しかし、そこまで厳しいコースには飛ばずに、ゴール前にどっしりと構えたGK西川選手が両手でセービングした。
「25分18秒~27分20秒」画面上に表示されたこの時間のあいだ、アル・ヒラルの攻撃が消極的なボール回しに終始した。
主にCBの2人、SBの2人、オタイフ選手、カリージョ選手がパスコースを探しながら右へ左へボールを受け渡すだけ。
浦和の選手は前を向きながら、万全の態勢でアタックのチャンスを窺っている。
そのうちにカンノ選手も低い位置まで下がってきてしまい、アル・ヒラルのFWが完全に孤立する形になってしまう。
最後にはオタイフ選手が苦し紛れに出したパスを伊藤選手がインターセプトして、カウンターをくらってしまっている。
アル・ヒラルは少なくとも1点が欲しいはずなのに、明らかに第1戦よりもチームの重心が下がってしまっているようだ。
① アンカー専任でオタイフ選手を起用したこと。
② 低い位置でプレーを開始したがるカリージョ選手を起用したこと。
この2点が原因のように思える。
第2戦で採用した4-3-3システムのメリットは、3人のFWが常に相手ゴールに近い位置でプレーできるため、FWの攻撃力を強く出せる点だ。
強いウインガーがいるアル・ヒラルは、その力を最大限に利用することもできる。
特に、高い位置でボールを奪ってショートカウンターのような形になれば、前線に揃った3人のFWが威力を発揮する。
ただ、最終ラインからビルドアップするような場合には、人数が少ない中盤と最終ラインから、どのようにしてFWまでボールを供給するか、という点が課題になる。
第2戦のアル・ヒラルは、その課題を抱えながら試合を進めているようだった。
30分、右サイドを突破するドリブルから、酒井選手がゴール前にクロスを上げる。
ややファー寄りの位置で、DF2人に挟まれたポジションから興梠選手が動き出す。
クロスは興梠選手の前方に飛んできた。
ジャンプしながら、右足インステップ(アウトサイド?)のボレーを合わせる。
体の左側まで右足を伸ばして、前方を逃げていくボールを追いかけるように叩いた超絶ボレーだ。
しかし残念ながら、シュートはクロスバーを叩いてしまった。
酒井選手からのクロスは、ヘディングでいくべきか迷うような軌道だった。
ヘディングがダメだと判断した場合、なんとか足でさわるしかない。
この場面のように自分の体の前方を通り過ぎるようなクロスの場合だが、普通はボールが飛んで来る方向から遠い足でのボレーを選択する。
この場合は右サイドからのクロスなので、左足でのボレーシュートになる。
74年のワールドカップで、クライフがブラジル戦で得点したジャンピングボレーのような形。
もっともあれは、左からのクロスに遠い方の右足を伸ばしてシュートしているが・・・
普通は少しでもボールに合わせる時間を稼ぐために、遠い方の足を使う。
ただ、興梠選手は利き足が右である。
効き足が右の選手の場合、右からのクロスにジャンプしながら左足のインサイドボレーをある一点で合わせるのは相当に難しい、と私は思う。
しかし、だからと言って、興梠選手のように右からくるクロスに右足のジャンピングボレーを合わせるような選手はいないだろうと思うのです。
クロス来た!あぁ、軌道が微妙・・・ボール行っちゃう・・・となった時に、ああいうプレーが出るでしょうか?
とにかく、この興梠選手のシュートにはびっくりした。
しかも、ゴール枠を揺らすくらいに強くジャストミートしてますもんね・・・
ちなみに酒井選手のドリブル突破だが、カリージョ選手が非常に淡泊な1対1の守備をして簡単に突破を許している。
ボールを持たせれば非凡な攻撃的センスを発揮するが、守備に難がある選手なのだろうか。
昔のゲームメイカータイプの選手には、よくそういう選手がいたような気がします。
42分、浦和の守備ブロックの外側で侵入の機会を窺いながら、アル・ヒラルがボールを保持する。
カンノ選手が右サイドからドリブルで中央に切り込みながら、フリーのカリージョ選手へパス。
カリージョ選手への浦和の寄せが遅れると、すかさず、ゴールから20mぐらいの中央の位置でミドルシュートを放つ。
少しフックしながら枠を捉えたシュートだったが、GK西川選手が右手でセーブする。
続くCKも、インスイングのボールに飛び込んで来たアルブライヒ選手と競り合いながら、西川選手がハイボールを難なくキャッチした。
ここまで西川選手の守備機会が多い。
しかし安定したゴールキーピングを見せている。
48分、浦和がゴールから40mくらいの距離、中央付近でFKを獲得する。
岩尾選手の蹴ったボールが、ペナルティーエリア左端のゾーンに走り込んだホイブラーテン選手にピタリと合う。
フリーでゴール前にヘディングで折り返したボールが回転と風の強さによって、カーブをかけたインスイングのコーナーキックのようにGKとDFラインのあいだへ飛んでいく。
興梠選手の飛び込みに惑わされて、GKアルマユーフ選手がそのボールをキャッチできない。
流れたボールにカリージョ選手が懸命にクリアを試みるが、ゴールの天井に蹴り込むようなオウンゴールとなった。
ホイブラーテン選手を完全にフリーにさせてしまったアル・ヒラルのマークミス、強風でボールが枠内に向かったこと、興梠選手の飛び込み、これらの要因が重なって浦和が待望の先制点を獲得した。
この得点が生まれるFKになったプレーは次のような経過だった。
①酒井選手へのカリージョ選手のプレスが甘く、伊藤選手へパスがつながる。
②小泉選手のマークを捨ててアタックするオタイフ選手より早く、伊藤選手はワンタッチで興梠選手 へつなげる。
③興梠選手はアルブライヒ選手にチェックされるが、こぼれたボールがフリーの小泉選手へつながる。
④前進しようとする小泉選手を、慌てて戻ったカンノ選手がファウルで止める。
第2戦の得点シーンは、第1戦と同様に、アル・ヒラルの中盤でのマークのずれが発端になった。
80分以降、選手交代によってアル・ヒラルはそれまでのフォーメーションを崩し、前線に人数をかけるようになった。
前線に5人程度の選手を並べて、浦和の守備ブロックの外側からクロスを放り込む攻撃を繰り返す。
最終盤には2人のCBも最前線に上がった。
特筆すべきは91分の場面。
カリージョ選手が最前線に送ったボールを、CBのアルブライヒ選手が胸でイガロ選手に落とす。
イガロ選手は巧みなワントラップでホイブラーテン選手をかわして、シュート体勢に入る。
GKの西川選手と完全に1対1の状況だ。
しかもゴールから至近距離の位置で。
てっきり、ゴールの右側を狙ってシュートすると思った。
そこがぽっかりと空いていたからだ。
しかし、イガロ選手はしっかり腰を入れるようにして、ゴールのやや左側を狙ってシュートする。
西川選手はそのシュートを右足の膝辺りに当てて間一髪でセーブした。
アル・ヒラルは、起死回生のゴールになるはずのチャンスを逃してしまった。
そのまま浦和が1点のリードを守り切り、3度目のACL制覇を達成した。
アル・ヒラルという強敵に対して、各選手が自分のポジションでの仕事を最大限に果たすことで対抗した。
その結果、僅差での勝利を手にしたという印象を持ちました。
4バックは相手の3トップをフリーにしない、仕事をさせない。
ボランチは中盤での攻守両面で主導権を握る働きをする。時には最終ラインの守備を補完したり、攻め上がってミドルシュートをうったりする。
サイドプレーヤーはタッチライン際でパスの受け手となり、ボール保持のリズムを作る。もちろんサイドからの攻撃の中心となる。
1トップとトップ下は相手DFの脅威となる動きでゴールを目指す。守備でも相手のビルドアップを制限させる動きを繰り返す。
と、いうように、当たり前に求められるポジション別の役割を当たり前にこなし続けた。
その持久力と安定力でアル・ヒラルを上回った。
そんな印象を持ちました。
それから特に、GKの西川選手について言及したい。
今まで西川選手に対して、左足のライナー性のパントキックが速くて正確ですごい、というような漠然とした印象しか持っていなかった。
特に身長が高いわけではないけれど経験があるし、いいGKなんだろうな・・・というようなイメージだった。すみません。
しかし、ACL決勝の2試合を見て、なんとなくですが西川選手の凄さがわかったような気がしました。なんとなく。
それはポジショニングの凄さ。
ポジショニングというと、状況に応じて機敏に動く動的なイメージがあるが、西川選手の場合は静的なポジショニングと言ったらいいでしょうか。
とにかく、相手の動きや状況からの予測で下手に動いたりしない。
奇跡的なセービングをしたGKが「ここに来るんじゃないか?というカンだけで無意識に体が動きました」というコメントなんかすると、なんだか凄くカッコ良く感じてしまう。
だが、西川選手はそのようなセービングとは対極にあるセービングをするGKだと思う。
例えば、前述した21分のミシャエウ選手のシュートに対するセービング。
西川選手から見てミシャエウ選手は右から左にドリブルしてきている。
そのドリブルに付く形で、味方のDFがミシャエウ選手の体のすぐ右側にくっついて見えるはずだ。
そういう状況の時、GKとしては自分の左側のゾーンが気にならないだろうか。
そちら寄りに移動してしまったり、そちら側に体重移動してしまったり・・・
しかし映像で見る限りでは、自分の左側を重視しているようなポジショニングをしていない。
右側にシュートが飛んできても、対応できるようなポジショニングに見える。
また、左側へすぐ跳べるように準備する素振りも見せていない。
結局、ミシャエウ選手のシュートは西川選手が、ほぼ体の位置でストップしている。
続いて、91分の決定的なイガロ選手のシュート。
この場面でもイガロ選手は西川選手から見て、右から左に動きながらシュート体勢に入っている。
そして、イガロ選手の右側からは味方のDFが必死に食らい付いているのだ。
そうした状況で、GKとしては自分の右側のゾーンを消してしまいたくならないだろうか。
自分の左側にシュートが来る!と読んで、動きたくならないだろうか。
特にこのような、アディショナルタイムでの絶体絶命のピンチでは。
しかし、西川選手は右側も左側も平等に扱っているようなポジショニングをしている。
そして、実際にシュートは自分のやや右側寄りに飛んできて、右ひざでストップしているのだ。
確かに、シュートが自分の右に来るか左に来るか、上に来るか下に来るか、なんてことはボールが飛んで来るまでわかりはしない。
だから「全方向に対応できる可能性が最も高いポジション」を取ることが、どんな局面においても正解なんだろう、とは思う。
しかし、極限状態でそのような正論を淡々と遵守できるものだろうか・・・
この試合の2つのシュートストップを見て「どんなに緊迫した場面でも常にいるべき場所にいる」というポジショニングこそが、西川選手の凄さだと強く感じた。
ギャンブルをしない度胸のよさ、冷静さ、ということになるでしょうか。
GKを見る時の自分なりの基準が、ひとつ新しく生まれたような試合でした。
ロングボールを効果的に使って、最前線に人数をかける圧力のある攻撃を見せた。しかし、その他の時間帯は単純に攻めあぐねた、という印象が残る。
中盤の3人を中心にボール保持の時間は長いのだが、結局はチャンスを作れていない攻撃(?)の
時間帯が続いた。
もちろん、ボールを保持して敵の隙を探りながら、ショートパス・ドリブルを使ってスローペースで攻撃するタイプのチームはある。
でも、第1戦を見る限りではアル・ヒラルはそういうチームではないと思う。
アル・ヒラルとしては強引にでも、前線にボールを送るような攻撃を多用した方が良かったのではないか。
味方のFWと相手のDFとの力勝負に突然持ち込んで、そこからの打開を期待する攻撃。
そして、その攻撃のセカンドボールを回収して、再度FWへつなげる攻撃。
とにかく、この試合ではアル・ヒラルが自陣から攻撃を組み立て、スローペースになってしまうパターンが多かった。
この原因として、浦和がロングボールやサイドからの攻撃を有効に使っていたことが考えられる。
そうすることで、相手陣地の高い位置で、良い形でボールを持つチャンスを、アル・ヒラルは排除されてしまったと思う。
「攻撃の停滞(アル・ヒラル)」で前述したように、第2戦のシステム変更がアル・ヒラルにとって良い方向に出なかった、と思えて仕方ない。
かと言って、第1戦のように中盤のバランスを崩してまで攻撃に特化しても、良くない結果になってしまう・・・
サッカーは難しい。
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