2023年5月13日(土)@IAIスタジアム日本平
かなり前の試合で今更なんですが、映像でじっくりと観戦しました。
Jリーグでの静岡ダービーと言えば、これはもう清水エスパルス対ジュビロ磐田が頭に浮かぶかと思います。
でも、今回の静岡ダービーはJリーグの舞台で初めての対戦カード。
清水エスパルス対藤枝MYFCの一戦です。
エスパルス対ジュビロという伝統のダービーに、強い思い入れがある静岡の人は(特に両チームのサポーターの人には)多いでしょう。
それだけに、藤枝MYFCは注目を浴びる絶好のチャンスをつかんだのではないでしょうか。
実際、このダービーで藤枝MYFCのサッカーを初めて見る、という人も多かったと思います。
超攻撃的サッカーをキャッチフレーズにしている藤枝。
持っている力を十分に発揮して、初観戦の人たちに何かを感じさせたいところです。
さて、試合の方ですが、結果はご存じのようにJの先輩である清水が5-0で大勝しました。
かなり一方的な試合になってしまいましたが、それだけに改めて試合の内容を確認したくなりました。
清水はどのように強かったのか、藤枝のダメだったところはなんなのか、良いところはなかったのか、など・・・・・
両チームの視点に立ちながら再確認してみます。
試合が始まっての率直な感想は、「藤枝、悪くないじゃないか」ということだった。
まずは、清水のボール保持者、あるいはルーズボールに対してファーストディフェンダーが迷いなくアタックできている。
そして、そのファーストディフェンダーに続く形で第2、第3の選手が連動し、清水のボールの出どころを抑えようと動いている。
ボール保持者からのパスを受けようとしてフォローに動く清水の選手を、きっちりとマークしている。
そしてマイボール時には、味方が適切な角度でサポートに入りポゼッションを継続する。
ただ、ボールは保持できているようだが、清水の最終ラインにプレッシャーを与える、またはシュートをうつ、という段階には到達できていない。
藤枝がどのような方法でその段階に移行しようとするのか?
そんなことを考え始めた矢先だった。
試合開始からちょうど2分。
乾選手のルックアップしたキープから中山選手にパスが通り、ゴールから30mほどの中央部分でドリブルを開始する。
このドリブルが腰の据わった力強いドリブルで、鈴木選手、新井選手がチャレンジするが止められない。
3人目の平尾選手のショルダーチャージでやっと止められたが、ボールだけがゴール方向へ転がる。
そのボールを奪おうとして新井選手と川島選手が2人同時にアクションを起こしたために、2人が動きを同時に止めてしまった。いわゆる「お見合い」というやつだ。
ボールは誰にも邪魔されずに、ゴールの目の前にいたチアゴ サンタナ選手の足元へ転がった。
サンタナ選手が左足のトーキックでゴールネットを揺らす。
清水エスパルス 1ー0 藤枝MYFC
GK北村選手が決死の飛び出しをしていたが、ボールを槍で突くようなトーキックを選択するサンタナ選手の判断と技術はさすがだった。
あの場面、もし、トーキック以外のキックでシュートしたら、ほんの僅かだがシュートモーションの時間を使ってしまい、北村選手にボールをさわられていたかもしれない。
また、新井選手と川島選手のお見合いだが、
ゴール前の危険な地域でのお見合いなど言語道断である、なんてことはサッカー選手なら身に染みてわかっている。
なので、どちらかの選手が、普通は遅れてプレーを止めようとした選手がそのまま強引にプレーを続行して、お見合いを避けようとする。
しかし、この場面では本当に2人の呼吸が合いすぎてしまっていた。
同じような体勢で、同じような準備動作で、こぼれたボールにアプローチしているのだ。
あれでは2人同時に、反射的に足を止めてしまうかもしれない。
藤枝としては早すぎる失点をしてしまった。
Jリーグで初めての静岡ダービーという特別な試合、できれば無失点の時間を長く続けたかったはずだ。
そして、できれば先制点が欲しかった。
前述したように、試合の入りは決して悪くなかった。
0-0の状態はたったの2分間しか続かなかったが、攻撃面・守備面共に高いテンションでプレーできていたと思う。
ただ、失点のあとも藤枝の攻撃面に変化は感じられなかった。
持ち味である短距離パスを中心にして、ボール保持を継続する。
時々は最終ラインまでボールを戻しながら、なんとか清水のディフェンスの隙を見出そうとしている。
8分にはセンターサークル付近の川島選手から、右サイドの高い位置に上がっていた小笠原選手へ展開する。
このパスをダイレクトで斜め前方にいた岩淵選手へ通すと、岩淵選手は相手のマークを背負いながら、更に斜め前方にいた久保選手へ連続のダイレクトパスを送る。
久保選手のセンタリングは中にいた渡邉選手には合わなかったが、CKを獲得できた。
複数のパスで相手陣地を攻略するという、藤枝らしい攻撃は失点後も健在だ。
しかし、守備面での微妙な変化があったと思う。
サッカーでは、どちらのチームも普通はボールの保持を目指してプレーする。
なぜなら、通常はボールを保持するチームに得点のチャンスがあるからだ。
そして、ボール保持を続けてゴールを目指すには、ボール保持者から次のボール保持者へパスをつないでいく方法が一般的だ。(メッシやエムバペのような超スーパースターがいれば別だが。)
それには、ボール保持者からパスを受けるべく、パスを出せる位置にフォローに行く行為が必要となる。
対して、守備側のチームはそのフォロー行為を徹底的に邪魔したい。
そして、相手のボール保持を終了させて自分たちのチームがボールを保持したい、と考える。
失点後の藤枝に、その「フォロー行為を邪魔する行為」の低下が見られた。
例えば、
5分の場面では、GK権田選手→鈴木選手→吉田選手と渡ったビルドアップのボールを、前方のカルリーニョス ジュニオ選手へフィードする。
パスを受けたカルリーニョス選手には小笠原選手がしっかりとマークについている。
カルリーニョス選手はフォローに来た宮本選手へ、一旦ボールを戻す。
宮本選手は藤枝のチェックを受けることなく、約10m先の乾選手へダイレクトパスを送る。
この時、当初は乾選手に平尾選手がマークについていた。
しかし、自分がマークしていないカルリーニョス選手にパスが送られたので、そちらに意識が行ってしまったのだろうか、
3mほど乾選手を離してしまっている。
乾選手はその隙を逃さず、ボールを受けると鋭くターンしてサンタナ選手にスルーパスを送る。
そのスルーパスは川島選手がカットしたのだが、もし通っていれば重大なピンチの場面だった。
このように、「フォロー行為を邪魔する行為」に対する集中力が低下してしまったような場面が、失点後に確認できた。
そして10分には再び、そのような場面が続く。
相手陣地へ攻め込んでいた藤枝だったが、左SBの吉田選手がボールをクリアする。
しかし、その浮き球のクリアはあまり距離を稼げずに、自陣内の中山選手にかろうじて届いた。
中山選手のフォロー行為を邪魔する藤枝の選手はいなかった。
そのため中山選手は、クリアボールが落下してくるのを落ち着いて待ち、右足インサイドのボレーを使って約5m先の乾選手へパスを送った。
本来なら、中山選手、乾選手のどちらかの選手を邪魔して清水の攻撃を遅らす、できればボールを奪って2次攻撃に移りたかった。
しかし、一番近くにいた平尾選手が遅れて中山選手のチェックに入った時には、既に乾選手へパスが出されてしまっていた。
この場面でも、ボール保持者であった吉田選手をフォローする中山選手、その中山選手をフォローした乾選手という2人のフォロー選手を邪魔できずに、自由なプレーを許してしまう結果になる。
乾選手はドリブルで前進を始める。そして敵陣ペナルティーエリアの手前で、左サイドを走ったカルリーニョス選手に丁寧なパスを送る。
カルリーニョス選手は、転がるパスと歩調を合わせてダイレクトでクロスを上げた。
そのクロスをブロックしようとした川島選手の手にボールが当たってしまい、清水がPKを得る。
PKはカルリーニョス選手が冷静に決めた。
清水エスパルス 2ー0 藤枝MYFC
藤枝にとっては、早い時間帯で追加点を奪われる最悪の展開になってしまった。
しかし、藤枝にとっては追加点のすぐ後に、より最悪の展開が待っていた。
16分、最終ラインのビルドアップのボールをカルリーニョス選手がカットして左サイドからセンタリングを送る。
フリーで走り込んだ北川選手(負傷のサンタナ選手に代わりIN)が確実に決める。
清水エスパルス 3ー0 藤枝MYFC
前半の序盤で3-0となり、清水にとって絶対的に優位な展開になった。
今のところ、3点のうち2点は乾選手が起点となっている。
この試合を見ていてとにかく感じるのだが、乾選手がフリーでボールを持ち、効果的なパスを散らしている場面が目立つ。
たった1人で決定機を作りまくっているのだ。
なぜだろう?と思って乾選手の動きに注目すると、一つの特徴のようなものがわかったような気がした。
サッカーのピッチの広さは、大まかに言って100m×70mぐらいだ。
そうした時に、広いピッチの中では温度差というものが常に生じているような気がする。
なにかが起きそうな予感を抱かせる熱量の大小、それが温度差となってピッチ内に分布している。
サッカーはボールを奪い合い、相手陣地のゴールに叩き込むことを最終目標とする競技だ。
なので、ボールのある位置、ここは温度が最も高い地点だろう。
そこから、ボール保持者→ボール保持者をマークする相手選手→ボール保持者からパスを受けようとする味方選手→その選手をマークする相手選手・・・というように、ボールから遠ざかるに従って段々温度が下がってくるように思う。
ボールを中心にして、同心円的な温度分布になる感じだろうか。
その他には、逆サイドで思い切りフリーになっている選手がいる地点、とか、CFとCBが最終ラインで駆け引きをしている地点、なども比較的温度が高くなっている地点かもしれない。
乾選手は、ピッチ内の「温度」が高くない地点にいてボールを受けようとしている。
もちろん状況によっては自ら高温度の地点に身を投じることもある。
事実、清水のハイプレスの先導役として、藤枝のビルドアップにプレッシャーを掛け続ける役割も担っている。
しかし、ここぞという場面では、ピッチ内の温度が少し冷めている絶妙な位置にポジショニングしているのだ。
例えば、20分の場面。
吉田選手が前方のカルリーニョス選手に長めの縦パスを送る。
カルリーニョス選手はワントラップして、吉田選手のやや前にいた宮本選手に同じぐらいの長さのパスを戻す。
この2本の大きなパス交換で、藤枝の6人の選手が同じサイドに引き寄せられている。
乾選手は、その時センタースポット付近にいて、このサイドでの攻防を一望できる位置にいた。
カルリーニョス選手からのパスを受けた宮本選手はワントラップした後、なんの迷いもなく乾選手にパスを送る。
フリードリブルを開始して、キラースルーパスのタイミングを窺う乾選手だったが、この場面では危険を察知した岩淵選手が猛追して、ファウルのないスライディングタックルでボールを取り返した。
この試合では、このような乾選手のポジショニングから数回、決定的なチャンスが生まれている。
もちろん、乾選手の戦況判断が素晴らしいと言える。
しかし、同時に藤枝の守備の弱点をもろに突かれているとも思う。
藤枝の基本システムは3-4-2-1システムである。
一応、3バックの一つ前のラインが4人ということになっている。
2人のボランチと2人のWBを合わせた4人だが、守備時にこの4人が横並びになる場面はあまり見られない。
ボールがあるサイドのWBが守備に下りてきたり、相手の攻撃に押し込まれる時間が長くなった時に両方のSBが下りて来て5バックを形成する事はある。
しかし、とにかく相手にボールを持たれたら、ボランチの位置まで戻って4人並んでピッチ幅のスペースを埋めなさい、ということにはなっていないと思う。
また、2人の攻撃的MFがボランチの真横のスペースを埋めて4枚の壁を作ることもしない。
ボランチの2人、攻撃的MFの2人は基本システムの通りに、四角形を作りながら守備をすることが多い。
中盤で4人が横並びになり、ピッチの横幅を埋めて相手を待ち構える、という守備はしない。
相手陣地の高い位置から、ワントップと2人の攻撃的MFが相手ボールを追いまわす。
そして、その後方から2人のボランチ、あるいはWBが加勢するように守備に加わる。
できるだけ早い段階で、ボール保持者の近くに人数を集めて相手の自由を奪う守り方。
超攻撃的サッカーを掲げている藤枝だが、守備も同様に攻撃的だと思う。
しかし、MFが縦関係に位置しながらボールを囲い込むようにする守り方のため、ボールの周辺に守備者は多いが、そこからある程度離れると守備が薄くなるゾーンが生まれ易くなってしまう。
乾選手には、その藤枝の弱点を突かれ続けたと思う。
27分、今度は藤枝の守備範囲内でボールを持った乾選手が、そこから抜け出すようなドリブルでフリーとなる。
そして、フルパワーでダッシュする右SBの北爪選手へスルーパスを送る。
GKと1対1になった北爪選手は落ち着いてゴールを決めた。
清水エスパルス 4-0 藤枝MYFC
その後も乾選手が決定機を作る場面があったが、前半はこのままのスコアで終了した。
後半から藤枝の横山選手が、ボランチになった。
そして、GKの前でビルドアップの起点になる働きをするようになった。
すると、藤枝はビルドアップが落ち着くようになり、清水のハイプレスをくぐり抜けるようになる。
横山選手の受け方がいい。
ビルドアップの場面で、相手のプレスによってパスコースを消されてしまうことがよくある。
そんな時でも、ほんの少し横へ動いてパスを出せるコースを作りだす。
味方も横山選手へ迷わずパスを出すので(際どいパスだが)ビルドアップが停滞しない。
すると、相手も徐々に的が絞れなくなりハイプレスを突破されてしまう。
50分、横山選手がGKからのビルドアップボールを巧みに受けて前を向く。
そのまま、清水のボランチを一気に追い越す縦パスを渡邉選手に送ってチャンスを演出した。
前半には見られなかったプレーだ。
ビルドアップが落ち着くようになり、藤枝が前を向いて攻められるようになると、清水もこれまでのような強度の高いプレスを闇雲に仕掛けることはなくなる。
自陣に引いて守備ブロックを構築する場面が目立つようになった。
その理由として、4点という大量リードもあるかと思うが。
また、横山選手がボランチになり、少し引いた中央寄りの位置にポジショニングすることで、乾選手にそのスペースを使われるようなこともなくなる。
簡単に決定的なチャンスを作られることもなくなり、藤枝のリズムで試合が進むようになってきた。
横山選手の配置転換によって、藤枝の攻撃する時間が圧倒的に長くなった。
後半、ボール保持という本来のスタイルを取り戻した藤枝。
56分に、小笠原選手からのミドルパスを受けたアンデルソン選手が惜しいシュート。
60分にも小笠原選手が攻め上がり、渡邉選手との連携でシュートをうつ。
攻撃的サッカーをチームコンセプトにする藤枝がゴールを目指す。
しかし、清水は後半途中からCBの高橋選手を加えて、5バックでゴール前を固めてきた。
藤枝はカウンター攻撃やロングボール攻撃のチームではない。
多くの選手が関与しながら、パス、ドリブルを織り交ぜてゴールを目指すチームだ。
そのため、この試合の後半のように、まずはボール保持で優位に立つことが必要になる。
しかし、ボール保持が必ずしもゴールに結びつくかというと、それはまた別の問題である。
ましてや、清水は5バックでの迎撃態勢を敷いているのだ。
果たして、藤枝は攻める時間こそ増えたが、得点という結果を出すことができずに時間が経過していくことになる。
逆に、72分には、オフサイドラインから抜け出した北川選手の優しいパスをカルリーニョス選手が確実に決めた。
清水エスパルス 5-0 藤枝MYFC
その後も、藤枝は1点を目指して攻め続けた。
しかし、ゴール前のディフェンスを固めた清水は藤枝に得点を許さない。
新しい静岡ダービーの記念すべき初戦は、清水エスパルスの完勝で終わった。
J2トップクラスであろう戦力を誇る清水が、圧巻の攻撃力と守備力を見せた、というのが観戦後の率直な感想だった。
とにかく、選手のスプリント能力が凄い。
その能力は、ボールを奪おうとするプレスに生かされるし、相手ゴールに迫る攻撃時にも発揮される。
前半、藤枝はボールを保持しても、その保持をなんとか維持するためのパス回しが多かった。
藤枝のボール保持者、その周囲のフォロワーへの清水のプレッシャーが激しくて、GKやCBなど最後尾の味方へやむなく逃がすようなパスが多くなる。
ちなみに3点目は、そのような状況でのミスからだった。
また、攻撃のスイッチが入った時にはゴール方向へ直線的なスプリントをする選手が現れ、そのスプリントを活かすパスが出てくる。
4点目の、無人の野を行くような攻撃は圧巻だった。
後半は藤枝が盛り返したこともあって、前半と同じようなサッカーはできなかった。
しかし、5バックで後ろに重心を置くという全く違ったサッカーで完封勝ちするのだから、やはり力がある。
選手一人ひとりの事を言いだしたら、どのポジションの選手でもその卓越性を語れてしまうが、特に右サイドの2人、中山選手と北爪選手のスピードには驚いた。
彼らにトップスピードに乗られたら追いつけない。
こういう選手が同じサイドで縦に並んでいるのだから、守る側は嫌だろうなぁと思う。
スプリントの力で、守備でも攻撃でも相手を上回ることができる。
清水はこの試合、早い段階で1点、2点と得点したが、そうなると余計にこの特性が生きてくる。
メンタル的にも、より大胆なスプリントがパフォーマンスされる。
逆に相手はその勢いに飲み込まれてしまう。
3-0となった後の清水のハイプレスは凄まじかった。
結局前半は、もう1点を加点して4-0で終わったが、あと3点ぐらい得点していてもおかしくないような勢いだった。
今季、なかなか勝てない時期が続いて「どうしてだろう?」と不思議だったが、この試合では怒涛の強さを見せてくれました。
順位もやはり上がって来ましたね。
0-5という大敗を喫したが、それだけに得たものもあったのではないかと思う。
非常に強度の高いプレッシングを受けてその基準値を経験したこと、優れた選手に守備のバランスの悪さを突かれてしまう経験をしたこと、悪かった状況を立て直す対応ができたこと、などが挙げられるだろう。
ただ、この試合の悔しさを無駄にしないためにも、得点できなかったという事実は受け止めるべきだと思う。(言われるまでもないでしょうが・・・)
前線から強烈なプレスを受けても、ゴール前をたくさんのDFで固められても、攻撃的なサッカーを掲げる以上は、得点できる個人能力と組織力の向上を追求して欲しいと思います。
無得点だったこの試合でも、得点のチャンスはもちろんあった。
その中で、後半の2つの場面を挙げてみたい。
まず、60分の場面。
右SBの小笠原選手が右サイドから中央方向へドリブルで持ち上がる。
その小笠原選手の前をクロスするように、アンデルソン選手が斜めにランニングする。
小笠原選手はドリブル方向の前方にいた渡邉選手へパスを渡す。
渡邊選手はゴール方向へドリブルを開始して、清水のCB2人を引き付ける。
その渡邉選手の背後を回り込むようにしてランニングしてきた小笠原選手へ、再び短いパスが出る。
相手DFの反応がやや遅れたために小笠原選手選手が抜け出してシュートをうった。
体勢的に右足アウトでのシュートになってしまったのと、角度が厳しかったため、権田選手にキャッチされてしまったが決定的とも言える得点のチャンスだった。
次に、76分の場面。
久富選手が右サイドからクロスを上げる。
クロスは一番大外にいた榎本選手まで届き、シュート気味の折り返しがゴール前を横切る。
視界の外から突然現れたような榎本選手の折り返しを、清水のDFはカットすることができなかった。
反対側の大外にはアンデルソン選手がいて、触ることができればゴールだったが、ボールの軌道がやや遠く、惜しくもゴールはできなかった。
この2つのチャンスでは、ゴールチャンスを迎えた小笠原選手とアンデルソン選手への、清水DFの対応が十分でない。
もっとも、だから大きなチャンスになっているわけである。
ではなぜ、清水のDFはチャンスを迎えた2選手へ十分な対応を行わなかったのか?
やはり、それは「行わなかった」のではなく「行うことができなかった」ということだと思う。
ディフェンスの選手は、シュートをうたれそうだと認知した選手を当然厳しくマークする。
それが主要な仕事でもある。
しかし実際には、そのような選手に対する十分なマークを最初から最後まで徹底するのは難しい。
マークを徹底できない理由は、主に次の2つだと思う。
①シュートをうたれそうだと認知していても、足が速くて追いつけない、フェイントでかわされる、相手が2人いて1人では対応できない、などの理由で物理的にマークできない。
②何らかの理由で、シュートをうたれそうだと認知できずにノーマークにしてしまう、または認知が遅れたためにマークも遅れてしまう。
と、いうことは①か②のような状況を作れば、得点のチャンスが生まれるということになる。
藤枝の得点チャンス、上記の2つの場面は②に当てはまるだろう。
60分の場面では、藤枝の攻撃で3人の選手がそれぞれの動きをしている。
そのため清水のDFが、一度に複数の選手を「シュートをうつ選手」として認知しなければならない状況になっている。
当然、1人のDFが複数の選手を認知する必要がある状況に陥れば、その精度は落ちてしまう。
そのため、大きな動きでパスを受け、シュート体勢に入った小笠原選手への認知が遅れた。
ひいてはマークが遅れて決定的なシュートの場面が生まれた。
76分の場面では、右サイドから逆サイドに送られたクロスに対して、一番遠くにいた榎本選手が十分に認知されていない状況だった。
恐らく、クロスを直接ゴールできるポジションではないので、榎本選手への認知が薄くなっていたと思われる。
そのため、いざ榎本選手へボールが届いた時に清水DFのマークが遅れて、榎本選手はダイレクトでキックしている。
また、その時、清水DFの視線と体の向きは榎本選手へ向いている。
従って、得点できるポジションにいたアンデルソン選手を完全に認知できていない。
ノーマークのアンデルソン選手が、もしボールに届けばゴールできた場面だった。
この2つの得点チャンスの動き、普段のトレーニングで共有していて意図的に作り出したのかどうかはわからない。
ただ、選手個人の感覚や閃きだけに頼ったり、むやみにロングボールを放り込んだりという、場当たり的な攻撃だけのチームは、少なくともJリーグには存在しないだろう。
どのチームも個と組織の特徴を最大限に活かした攻撃方法を準備して、試合に臨んでいるはずだ。
超攻撃的サッカーを掲げる藤枝MYFC。
その持ち味は、見る人が予測できないような攻撃でゴールに迫るエンターテインメント性にある。
より細部にこだわり、より綿密に練り上げられたシナリオを準備して試合に臨み、今後も見る人を楽しませるようなチャンスシーンをたくさん演出して欲しいと思う。
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